さまざまな事象を分かりやすい図解で表現し、Twitterやnoteでの発信で支持を集めるこばかなさん。多摩美術大学を卒業後、デザイナーとして歩み始めたのち、コーチング会社THE COACHの代表を務める。SNSなどで発信する内容は理路整然としているこばかなさんだが、普段どんなことを考えているのか。そして普段の発信から削ぎ落とされている“無駄”な部分にこそ、感性を刺激する大事なモノが宿っているはず! 外からの力が作用しなければ、物体は静止、または等速度運動を続けるという「慣性の法則」をなぞり、「こばかなの無駄話から生まれる“感性”の法則」と題した連載。こばかなさんと無駄話をして、日々の生活で静止しがちな思考を動かし始めよう。第3回目は、デッサンを通して考える“観察”のお話し。
美術予備校に通い直して気がついたこと
最近、昔通っていた美術予備校に10年ぶりに通ってみました。なぜ今デッサンをやるか? というと、私のモノ作りの原体験がデッサンに詰まっていると思い、久々に学びたくなったからです。実際に通ってみて、デッサンは「観察」に活きること、そして「マインドフルネス」に活きることのふたつが面白いなと思っています。
実は、デッサンは絵の上手い下手よりも、「観察」の上手い下手が基本的なベースとしてあります。だから、デッサンは観察力を鍛える最高の手法だと思っていて。例えば、たったひとつのリンゴを描くにしても、数時間かけて見続けながらデッサンをしていきます。よく見るとつぶつぶの模様があったりとか、さらによく見ると同じ赤色でも違う部分があるというように、観察してみると意外な発見がたくさんあります。ほかにも、シルエットはどうなっているかとか、見る上での観点が多く、普段見逃してしまうことでも「観察」という行為を通すと多くのことに気付かされます。
観察する際に、その対象に対して相当集中することになる。だから、瞑想のようなマインドフルネスの要素もあると感じています。デッサンには絵を描くこと以上の魅力があるという気づきと同時に、観察力を鍛えることで普段の生活にも活きるのではないか? と思ったので、そのお話しをさせていただきます。
デッサン力=観察力?
絵をあまり描いたことがない人の絵を見ると、「観察が足りていないな」と思うことがあります。見方が雑だと、事物の複雑なラインに気づかず、ただの直線として描いてしまいがちです。じっくり観察して、正確にそのものらしさを捉えた上で、インプットとアウトプットを繰り返していく。
デッサンのプロセスは、仕事におけるモノ作りの流れに似ていると思います。例えばWebサービスを作る際に、ざっくりと大枠でプロトタイプを作って、ユーザーに試してみてもらって様子を観察する。観察をもとに修正を繰り返して、最終的に徐々に完成度を上げていくという流れで進めていくのですが、デッサンも似たようなプロセスなんですよね。
この記事が出来上がるまでも、私の話を聞いて何を感じたかを制作側の方は観察してる状態だと思うんですよ。話の大枠を捉えた上で編集して内容を詰めていく。その作業のなかで、より良い表現を見つけようとするスタンスは、仕事でいう細部のこだわりに繋がるなって。そういう意味で、観察とかデッサンは仕事にも転用できて、観察力を鍛えるのにデッサンは有効な手段だと感じています。
観察の練習法はこれ!
旅先で写真を撮るにしても、この1枚を最高にしてみる! みたいなトライをすると、自分のこだわりを出し始めるはずなんですよね。誰かにこの美しさを伝えたいと思うと、この景色の何が美しいのか妥協せずに向き合おうとします。身近な人を一人思い浮かべて、その方のいいところを30個書くっていうのも観察のいいトレーニングだなって思います。
本当はいいところが沢山あるけど、立ち止まって気がつくことをしていない……。これが、褒めることが難しいと言われる原因のひとつかもしれませんね。過去を振り返って30個挙げるでもいいし、いま30個挙げられる気がしないと思ったら、これから30個挙げてみるつもりで1週間過ごしてみると見方が変わってくるはずです。
人やモノの良さを見つけたり、課題を見つけたりと切り口を変えながら観察することで、自分の固定概念や考え方のクセを外せて、より柔軟な視点で捉えられるようになると思います。これは私の仕事のコーチングのなかでも重要な働きをします。コーチングは対象である自分の心を観察して、切り口を思いつくのが難しいからコーチに切り口をもらうっていう行為ですから。
身近なモノに美しさを見つける
デッサン教室の帰り道には、自分の解像度が高くなっている感覚があります。ただの地下鉄の風景でも「あそこの光が綺麗だな」と思えるなど、見えているモノの情報量が違ってくるんです。写真家の上田義彦さんという方がいるのですが、紙と光のみに焦点を当てた作品があります。ただの紙と自然光が被写体なのですが、そこに美しさを見出す。それってまさに、究極の観察だなと思います。
彼の作品を見ていると、紙が転がっていて汚い部屋だなと思うのか、集中して観察することで素晴らしい景色になるかは、自分がどのように対象に向き合っているのか次第だなと痛感します。感動は身近にも転がっていると気付けることって楽しいですよ。デッサンでも、人のいいところを挙げてみるのでもいいですし、みなさんにもその感覚をぜひ体験してほしいです。
text:雨谷里奈