マツコ会議、報道ステーション、サンデージャポンなどテレビ番組で取り上げられ、Twitterのトレンドにも入るようになってきた「メタバース」。2021年10月にFacebook社がMeta社へと社名を変更してから、新しいインターネットの姿であると様々な方面から注目されています。
Meta社はいいます。「メタバースは、社会のつながりの次なる進化です。当社のビジョンはメタバースの実現です。メタバースの3D空間では、人びととの交流、学習、コラボレーション、遊びが可能になります」と。ふむ、これだけではイメージが湧きにくい。メタバースとはいったい何を指す言葉なのでしょうか。
1つの指標となるのが、ベンチャーキャピタルのMatthew Ball氏の発言です。氏は2020年1月に自身のMatthew.vcで、彼が考えるメタバースの定義を以下のように記しました。
- Be persistent(リセットや終了がなく、永続的に続くもの)
- Be synchronous and live (メタバースの住民全員が同じ同時性を持ち、ライブでつながるもの)
- Be without any cap to concurrent users, while also providing each user with an individual sense of “presence”(同時接続人数に制限なし)
- Be a fully functioning economy(他の人に認められる価値ある仕事が存在し、所有・投資・販売によって生活費を獲得できる)
- Be an experience that spans both the digital and physical worlds(アナログの現実空間と、デジタルの仮想空間をまたぐ体験ができる)
- Offer unprecedented interoperability (アバターファッションなど、複数のサービスをまたげるデータの運用性がある)
- created and operated by an incredibly wide range of contributors(個人、またはグループ、企業が作り出した数多のコンテンツが存在する)
一般にメタバースは3Dの仮想空間で、アバターを介してコミュニケーションができるサービスのことを指します。加えてMatthew Ball氏は、終わりがなく、同時性があり、多人数が参加できて、働くことができる社会性があるものをメタバースと定義しています。
注目したいのが「働くことができる」という部分。いつか、メタバース内での活動によって収入が得られるようになれば、本当にメタバースの中で生活できるようになるのではないでしょうか。
メタバースのジョブマッチングサービス「メタジョブ!」
その時代はもうきています。メタバース空間で働いて稼げるという近未来感あるジョブマッチングサービス「メタジョブ!」がすでに存在しているのです。三井物産グループのMoon Creative Lab Inc.(ムーンクリエティブラボ)が運営する同サービスは、2021年10月21日よりVR技術やメタバースを活用した新たな事業に取り組む企業と、場所や見かけに縛られない新しい働き方を探す人をつなぐ同事業をリリースしました。
いくつかの事例を見ていきましょう。愛知県立御津高校は、学校の課外授業をmonoAI technology社が提供するXR CLOUDで実施。高校生のグループディスカッション&発表をサポートするファシリテーターをメタジョブ!が募集しました。
グループディスカッションに慣れていないと役割のセットだけでも多くの時間を使ってしまいがち。そこで必要となってくるのが滞りなく進行させるためのファシリテーターというわけです。コロナ禍ということもありXR CLOUD上での開催となったわけですが、普段からファシリテーションを行っている人でもデバイス・アバター越しにそのスキルを遺憾なく発揮できるとは限りません。だからこそVRなどの知識があり、アバターコミュニケーションにも長けているスタッフが必要となるのです。
三越伊勢丹が提供するVR空間REV WORLDS上にある仮想伊勢丹新宿店の案内スタッフも、メタジョブ!で募集をかけました。バーチャル上での接客がリアルなECサイトへの誘導および販売促進につながるかということの実証実験ともいえます。
仮想伊勢丹新宿店で販売した、アバター用のバーチャルファッションの着替え方がわからないという問い合わせも多かったそうです。REV WORLDSはスマートフォンアプリさえインストールすれば誰でも入れるメタバース空間ですが、それゆえに扱い方がわからないお客様もいらっしゃるとのこと。よってバーチャルの現場では、想像以上にフォローアップ業務が重要になってきたそうです。
KDDI主催のバーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2021の現場スタッフも、メタジョブ!経由の人々でした。メタバースプラットフォームclusterを用いたイベントで、開催期間中の来場者数はのべ50万人。超巨大なメタバースイベントの1つです。
ゆえに来場者の年齢層が広い。分別をわきまえた大人であれば問題ないものの、スマートフォンのマイクをONにしっぱなし(生活音が聴こえてきてしまう)な小学生がいたら、スタッフTシャツを来たスタッフアバターが声をかけたり、他のユーザーに絡んでいくやっかいなユーザーの側に注意喚起をするなど、場の雰囲気をコントロールすることに大きく貢献できたそうです。
未来に向けてテレワークの可能性を広げていく
メタジョブ!代表の星野尚広さんにお話を聞くと、もともとメタジョブ!はメタバース領域のジョブマッチングサービスとは考えていなかったとのこと。テレワークという働き方が浸透していくなかで、テレワークを実践できているのが事務職ばかりだということから、他の職種においても実現できないかという問題意識からスタートしました。
「特に接客業といった人手不足が深刻な職種であればあるほど、自宅から職場に通勤するという従来どおりの働き方しかできていません。日本の労働人口がどんどん下がっていく中では今後、サービスのクオリティを維持できなくなるかもしれません。だから新しく接客業や現場系のパート・アルバイトみたいな仕事も、テレワークでできる環境を作っていきたいと言うところから始めました」(星野さん)
働く意思はあっても、近くで働ける場所がない。また身体的な理由や、家族の介護でなかなか思うように働けていない人であっても、オンライン上で働けるデジタルワーカーの実現。それがメタジョブ!の目指す未来です。
メタジョブ!にワーカーとして登録しているのは、年齢層が20~70代で男女比でいうと女性の方が多く、子育てが一段落した主婦の方も登録しているとか。中には声優業や役者業をしている方もいるそうです。しゃべってコミュニケーションするという業務のスキルを持った人も興味を持っているわけですね。
「カラオケ店で遊べるマーダーミステリーゲームのゲームマスターの派遣も順次進めていきます。参加者がそれぞれの役割をロールプレイしながら小説をなぞっていくパーティゲームで、ゲームマスターは参加者の行動を反映させながら台本を進めていかなくてはならないため、トーク力とアドリブ力が求められます。こういう現場の実態も、メタジョブ!をはじめてから気がつきました」(星野さん)
メタバースに限らず、様々なテレワークの形を模索しながらジョブマッチングを進めているメタジョブ!は他の企業がまだ知らない、多くの知見を得ています。
「アバターの姿であるといっても、コミュニケーションをするのは人と人です。イベントやサービスを企画するときに上流から物事を考えてしまうと、肝心のユーザーコミュニケーションの部分で問題が起きかねない。だから我々が企画から参加するときは、下流から、ユーザーがあつまる現場から考えて作っていったほうがいいとアドバイスしています。メタバースという言葉がバズっていますが、技術先行ばかりで中身が薄いってなると一時的なブームで終わってしまうと思うんですよ。やはりユーザーが楽しいと思えるコンテンツが何かっていうのを考えて行くのが大事だと思っています」(星野さん)
メタバースに関しては今後も、様々な意見・思想から生まれた数多くの世界が作られていくでしょう。デバイスの進化により、より多くのユーザーが集うことも考えられます。しかし星野さんのいうとおり、人と人が会話するソーシャルな場ゆえにログインするユーザーの姿を想定し、満足させるものでなければ、一部の自治体の箱モノ行政のように過疎化ばかりが目立ってしまいかねません。「他の人に認められる価値ある仕事が存在し、所有・投資・販売によって生活費を獲得できる」メタバースの実現を目指すためには、先人が切り開いてきた事例から学んでいくべきでしょう。