東京五輪を現役ラストランと定めて挑み、男子マラソンで見事に6位入賞を果たした大迫傑選手。2017年4月のボストンマラソンでマラソンデビューを果たし、男子マラソンの日本記録を2度更新。記録にも記憶にも残る大迫選手のマラソンでの活躍を、レースで着用したシューズとともに振り返ってみたいと思う。
厚底は「驚きはしたが、抵抗はなかった」
2016年のリオ五輪には5000mと10000mの2種目に出場していた大迫選手の初めてのマラソンチャレンジは、2017年4月に開催されたボストンマラソン。「大迫、ボストンマラソン走るってよ」と、本人がTwiiterでつぶやいたのが話題になったのを覚えている人もいるだろう。
初マラソンの結果は、2時間10分28秒のタイムで3位。メジャー大会でいきなりの表彰台となった。着用していたシューズは「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」。この年の夏にリリースされることになる、カーボンプレートを搭載した厚底シューズの初代モデルである。
それまでは、エリートランナーがレースで着用するシューズは薄底であることが常識だったが、「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」の登場で固定概念が覆されることになった。当時のインタビューで、レース用のシューズとして厚底シューズを初めて見たときの印象を「驚きはしましたが、抵抗はなかったですね。どんなシューズでも履いてみないとわからないですから」と大迫選手は語っている。
また、先日メディア向けに開催されたオンラインインタビューでは「ヴェイパーフライ 4%の登場と自分のマラソンデビューが重なったことにはストーリーを感じましたし、思い入れの強いシューズ」というコメントを残している。
2017年12月の福岡国際マラソンでは、2時間7分19秒のタイムで3位に。東京五輪代表選考レースであるMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場を決めた大迫選手は、翌年、3度目のマラソンとなった2018年10月のシカゴマラソンで快挙を成し遂げる。
世界のトップランナーが集うシカゴマラソンで、当時の日本記録を更新する2時間5分50秒をマークし、3位となった。日本人で初めての2時間5分台となった輝かしい記録だ。このときに大迫選手が履いていたのは「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」。「ヴェイパーフライ 4%」をベースに、アッパーをフライニットにアップデートしたモデルだ。再び当時の大迫選手のインタビューを引用すると「アッパーがフライニットになり、フィット感が高まり、シューズの中で足が動かなくなった」とシューズについて語っている。
ちなみにこのときのシカゴマラソンでは、3位の大迫選手、優勝したモー・ファラー選手を含む上位5選手全員が「ヴェイパーフライ 4% フライニット」を着用していた。
再びオンラインインタビュー時のコメントになるが、大迫選手はフライニットについて「アッパーにニットを使うということに驚きましたが、フライニットのフィット感は結構好きでした」と話している。
上位選手がこぞってピンクの厚底
そして2019年9月、東京五輪のマラソン日本代表選考レース、MGCが開催された。男子選手は出場権を獲得した30名が出場したのだが、大迫選手は3位となり、惜しくもMGCでの代表内定には届かなかった。この時点で、東京五輪の代表枠は残り1つ。MGCファイナルチャレンジとなる福岡国際マラソン、東京マラソン、びわ湖毎日マラソンの3大会で当時の日本記録(大迫選手の記録)よりも1秒速い設定タイムを切った最上位選手が内定となり、同タイムを切る選手がいなければ、MGCの3位選手、つまり大迫選手が代表となるという状況になった。
MGCでは大迫選手を含む16名の選手が、「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を着用。上位選手がこぞってピンクの厚底シューズを履いていたため(トップ10のうち8名)、大きな話題になった。
大迫選手は「ヴェイパーフライ ネクスト%」について、「ヴェイパーフライ 4%」と比べてクッション性がさらに高まって、より足を守ってくれる感覚があり、レース後半に向けて力を貯めやすくなった」というコメントを残している。
MGCファイナルチャレンジで誰かが日本記録を更新しない限りは、東京五輪の出場が内定するため、大迫選手には“レースに出場せずに待つ”という選択肢もあった。当時、MGC出場選手で2時間6分台の自己記録を持っていたのは、設楽悠太選手と井上大仁選手のわずか2人。2時間5分50秒を切る日本記録更新の可能性は、それほど高いものではないからだ。
しかし、大迫選手は“レースに出場せずに待つ”という選択はせず、東京マラソン出場を決め、そこでまた圧巻の走りを見せる。
一度、自分のペースとリズムを守るために先頭集団から離れるが、後半に巻き返し、日本人トップとなる4位でフィニッシュ。しかも、タイムは自身が持っていた日本記録を更新する2時間5分29秒。残り1枠を目指しタイムを狙おうとした選手は、最後のびわ湖毎日ではなく、東京にエントリーしていたため、この時点で、大迫選手の五輪出場はほぼ内定となった。
2度目の日本記録更新となったこのレースで、大迫選手が履いていたのは「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」。レースの2週間前から履き始めたそうで、当時のインタビューでは「ナイキの新しい技術が使われているので、ナイキを信用して履いてみようと思いました。ヴェイパーフライ ネクスト%と比べて、さらにクッション性が上がったと思いますし、ズーム エアの効果でより反発を感じます」と語っている。
現役ラストランに選んだ勝負シューズ
東京五輪でのレースは、皆さんの記憶にも新しいところだろう。途中棄権する選手も目立ったタフなレースで粘りの走りを見せ、終盤で2人を抜いて6位入賞。見事な現役ラストランとなった。勝負シューズとして大迫選手が選択したのは、「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト% 2」だ。
「ネクスト% 2」を選択した理由、「アルファフライ」の違いについてはこう語ってくれた。
「ネクスト% 2は、全体的なバランスが良くてとても好きですね。アルファフライ はアルファフライで素晴らしくて、インパクト時の反発力やスピードはアルファフライの方が高いかなと思います」
東京五輪のコースは、北海道大学構内がジグザグでスピードが出にくいこともあり、直線でスピードを出しやすい「アルファフライ」よりも、小回りがきく「ネクスト%2」を選んだ選手が多かった。このあたりは使い分けの参考になるはず。
初のマラソン挑戦から、現役引退まで4年と数か月。この間に男子マラソンの日本記録を2回更新し、ボストンマラソン、福岡国際マラソン、シカゴマラソン の表彰台に。そしてラストレースとなった東京五輪では6位入賞を果たした。記録にも記憶にも残る走りを見せてくれた大迫選手。今後の挑戦も注目していきたい。