あなたにとってカバンはどんな存在だろうか? 正直、自分にとってカバンがどんな存在かなど考えたことがない人が多数なはず。この質問をするより前に「カバンは友達」と、まるで少年漫画の主人公のように目を輝かせながらカバン愛を語るのは通称“ジョニーさん”。カバンでお馴染みのエースの名物広報だ。今回はスタイリストの宇田川雄一が、ジョニーさんにあれこれを聞いてきた。
ジョニーさんにとってのカバンはいつもそこにあるもので、大事な人よりも長い時間を共にしている友達。例えば隣のコンビニ行く時、普通の人だったら財布ひとつで済ませるところを、ボディバッグを身につけて行くという。職業病かもしれないが、鞄がないとなんだか落ち着かない。
そんなジョニーさんの取材は、9割方がジョニーさんのトーク。それでも聞き手が飽きずに聞き入ってしまうのは、相手を楽しませようとしてくれるエンターテイメント性の隙間に豊富なカバンの知識を入れてくれる“学び”があるから。
この連載では、そんなカバン愛とカバンの知識に溢れたジョニーさんを通じて、カバンの歴史や知識、魅力を掘り下げていく。
最高を考える枠にはまらないスタイル
ナイロンバッグを業界で初めてデビューさせたエース株式会社というバッグ総合メーカーの名物広報でありながら、3代目「世界のカバン博物館」館長にして、「北九州ひまわり大使」という3枚の名刺を持つパラレルワーカー。
宇田川:ジョニーさんは、枠に囚われない自由なスタンスと人柄で業界内の名物広報として有名ですよね。
ジョニー:広報を勤めるエースの展示会やレセプションは一般的なそれとは一味違います。エースのような大きな会社の場合、一般的には外注したケータリングなどでまかなうことがほとんどですが、エースの場合は全て自分達で企画し開催しているんです。ある時は、私自身が料理を作って振る舞うこともありましたが、それも来てくれた人を楽しませて驚かせたいというエンターテイメントの考えからです。
じっとしてないで、とにかくトライ&エラー
宇田川:枠にはまらない自由なスタンスは、どのような考えで行動に移しているのでしょうか。
ジョニー:大事なのはとりあえず“トライ&エラー”を繰り返すこと。やってダメなら方向転換するとか、そこでもう一回アップデートするとか。シーンとしてたって始まらないですよね。なのでとにかくやってみるんです。こうした現状に満足せず常に挑戦する姿勢は、エースという会社が「失敗を恐れず色々チャレンジしよう」という考え方っていうのも大きいです。「失敗って転ぶ事じゃなく、そのまま起き上がらないこと」でしょ? バッグの一大革命と言われているナイロンバッグも、そうした創業者のチャレンジがあったからこそ生まれたと思っています。
ジョニー:1953年当時、ナイロン素材でバッグを作っている国内のバッグブランドはありませんでした。そうした中でも挑戦したのが、弊社創業者の新川柳作です。レザーと帆布が主流だったこともあり、ナイロンバッグに対して周囲からは懐疑的な目で見られていたと聞いていますが、試行錯誤を繰り返しようやくデビューしたナイロンバッグは、バッグの一大革命と言われ、今ではレザーよりも人気のバッグになっています。
名物広報。エンターテインメント。ジョニー伝説。
宇田川:ジョニーさんが広報になったきっかけは何だったのですか?
ジョニー:僕が営業から広報部に配属された当時、エースはPRを外部委託していたんだけれども、ある日上司から「外部委託をやめて自分達でPRをすることにしたから。君が担当して」って言われて。その前から自分達でやった方が、もっと露出を増やせるんじゃないかという葛藤もあったから、頑張ろう! ってことになったんです。それから、当時お世話になってた広告代理店の部長さんからアドバイスしてもらったのが、「モノを売る前に自分を売れ。自分を売ればモノは売れるよ」って言われたのも大きかったです。
宇田川:そもそも“ジョニー”さんの本名は“難波 敏史”さんですよね。ジョニーさんは、初めて会った人と挨拶をする際にお決まりのパターンがあるそうで。
ジョニー:まずは「どうも。ジョニーです」といって名刺を交換するのですが、受け取った側は“難波 敏史”という本名を見て「なんでジョニー?」となります。そんな表情を確認してから、
「なんでジョニーだと思う?」
「ジョニーさん? 波乗りジョニーだからですか?」
「いえいえ、ハリウッドスターですよ。」
「ハリウッドスター? っていうと、ジョニー・デップとか?」
「違いますよ。ジョニー・デブです。デップは“Depp”でしょ? “pp”をひっくり返したら“bb”になるじゃない? だからジョニー・デブ(Debb)です」ニコッ。
そこでウケなかったとしても、
「いやいや、ここ笑いですw。そこで笑ってくれないと、俺、切ないですw。でも、これで僕のことは2度と忘れないですよね?」
「いやいや、そんなことしなくても忘れませんってw」
と、会話が続きます。こうした掴みのパターンを持つことで、“自分を売る”という先輩のアドバイスを実践しています。常に髪型を変えたり、メガネを変えたりと会話のネタを作り続けるのもひとつの方法です。
宇田川:相手を楽しませるというエンターテイメントの精神を持ちながらも、周囲のアドバイスを素直に聞き入れ実践する、器の大きさと行動力が、ジョニーさんの人を引き込む魅力に繋がっていると感じました。
ジョニー:ある時、僕が自転車で近所を移動していたら、近くに住んでいる知り合いの編集を見かけたんだ。向こうは気づいていないから、突然大きな声で『おいっ!!』って声をかけたんだよ。そしたらさ、その編集が、ものすごくビビりながら振り向いて。顔をみて僕だって気づいたんだよね。で、『なんだ、ジョニーさん…。驚かさないでくださいよ』って安堵の表情になってさ。
宇田川:まるで悪戯少年のようなエピソードですね(笑)。常に誰かを驚かせたり楽しませたりすることが大好きなのが伝わってきました。
その人柄は、初めてお会いした時から旧知の仲のように懐に飛び込んでくる、年の差を感じさせない人懐っこさがあり、誰もがこの人の話に引き込まれてしまう魅力がある。ちなみに、ジョニーさんは部下の方々から“ボス”と呼ばれている。そこからもジョニーさんの分け隔てない器の大きさが窺い知れる。こうした魅力が結果として名物広報たらしめているのだろう。
Text:宇田川雄一