これまでたくさんのクルマに乗ってきた。最初は単なる移動手段だったけれど、ある時をきっかけに走る楽しさに目覚めてしまった。そんな僕が最近買ったのが、一風変わったレトロなスポーツカー「バーキン7」だ。
きっかけは、ヤフオクでポチッと
お酒を飲みながら、なんとなくヤフオクを見ていたら「あ、これいいな」と思ってポチったのがバーキン7を手に入れたきっかけ。ほぼ衝動買いだ。移動用のクルマと遊びのクルマをすでに所有していたのだが、遊びのクルマがもう1台あるといいなと。
ただ購入を決めたもうひとつの理由は、年を取ったときに乗りにくいクルマだと思ったから。オープンカーは、暑いし寒いし、公道はもちろん高速道路を走ったら風もガンガン当たって体力的にきつい。60歳、70歳になったときに、しんどいと思わず乗れるクルマではない。若いうちにというか、元気なうちに乗っておきたかった。
値段を調べてたら、すごい安く手に入るぞって。新車の軽自動車が買えるくらいの値段だったかな。どうせ原型がなくなっちゃうくらいカスタムしちゃうので、安いものでいいやと。もともと高級な自動車に興味がなくて、お手軽なおもちゃとして扱えるクルマがいい。直すという遊び、趣味が整備なのだ。
バーキン7を買って、一番面白いなと思うのは、とにかくおじいちゃんにモテること。特に60代くらいの方は信号待ちをしているだけでも、「バブル期はよく見たよ、懐かしいね、こんなクルマあったね」なんて声をかけてくれる。譲っていただいた方は年下の方だが、その前のオーナーさんが60代。団塊世代の方々が若かったころによく走っていたクルマのようだ。
実は燃費も良くて、リッターで10数キロ走る。かなり車重が軽いのだ。パワステはないけれど、全然運転しやすいし、パワステがなくてつらいと思ったことが1回もない。このクルマの不満点はエアコンがないことくらい。やっぱり真夏や真冬はどうしてもきつい。あ、最大の不満点は屋根がないことだ(笑)。
クルマを求めて、東へ西へ
お金はなかったけれど、一番クルマで遊んでいたのは学生のとき。大学時代で6台か7台乗り換えたかな。1番最初はオートマのシビックに乗っていた。いわゆる免許を取って最初のクルマだ。そのときは走りに全然興味がなくて、クルマなんて移動手段だと思っていた。
当時は関西の大学に通っていて、宇治川ラインという宇治川の横を走っている、いわゆる走り屋さんがいるような道があった。ある時、そこを走っていたらめちゃくちゃ速いFTOにぶち抜かれて、「なんか楽しそうだな」と思ってしまって。そこからすぐに、だったらマニュアル車じゃなくちゃね、スポーツモデルがいいねとなって、どんどんこの世界にハマっていった。
その後カローラレビン、インテグラタイプR、ロードスターと買い換える中で、現在のバーキン7を購入するまでの系譜につながるのだが、オープンカーの魅力に気づいていった。当時からヤフオクや個人売買を利用していて、ほとんど業者から買ったことがなかった。ロープレッシャーのタービン仕様のNA6が25万とか35万とかめちゃくちゃ安く売られていて、フェリーで北海道の小樽まで行った。残念ながら廃車にしてしまったので、そのあともう1度NA6を新潟か富山に買いに行ったこともある。
オープンカーは、空間と一体になれる
オープンカーの魅力って、実際に所有している人にしか分からないものがある。一言でいうと“開放感”になってしまうけれど、あえて表現するなら空間と一体になるような感覚かなと。例えば、田舎には田舎の香りがあるし、東京には東京の香りがある。自然が豊かな場所だけでなく、丸の内のビル群の間を走っているときにも感じること。匂いだけでなく、景色や空気をダイレクトに味わえるのがオープンカーの醍醐味かな。
そういえば、おじいちゃんだけじゃなくて子どもにもモテる。ちっちゃい子ってクルマが好き、特にオープンカーには目を光らせてくれる。昔みたいなクルマ全盛期ってわけじゃないからこそ、子どもたちにクルマ好きになってもらえる、クルマっていいなと思ってもらえるきっかけになるのもオープンカーの気に入ってるところ。世の中には面白いモノがあるんだぜ、と(笑)。
チャレンジできる回数が判断材料
いまは株式会社ShiftallというIoT製品などの家電やガジェットなどを企画や開発をする会社を立ち上げて仕事をしているが、これだけ自動車が好きでも仕事にする気はなかった。
学生時代、国内の自動車メーカーにも2社くらい内定をいただいていたが、クルマを仕事にしたら楽しくなくなるんじゃないかと思って。あと、例えばトヨタの人はトヨタの自動車じゃないと駐車場に停めさせてもらえないとか、いろいろ制約があってクルマを純粋に楽しめなくなるのが嫌だった。あくまでクルマは遊び、だから最初は家電業界に就職した。
別に絶対に家電がやりたかったわけではなく、ハードウェアがやりたかった。それは触れられるもの、服や靴でも良かったが、人生においてチャレンジできる回数の多さは重視した。そうなるとクルマや飛行機、宇宙ってチャレンジできる回数が限られている。宇宙なんて、もしかしたら生きているうちに自分が作ったロケットが飛ばないかもしれない。クルマもやっぱり法規制があって、こういうモノが作りたいと思っても、なかなか実現できない。20年くらい前から言われているが、ハンドルをやめてジョイスティックにしようと言ってもなかなか実現できないだろう。命を預かるものだから、もしものことがあったらいけない。なかなか攻めたことができないのである。
逆に買い替えが多いスマホや家電だったら、ときには攻めたプロダクトを作れるかもしれない。何度も何度もいろんなチャレンジがしたかった。老後に自動車をやるのはいいかもしれないけどね。小さなバックヤードビルダーを起業しても面白そうだ。
写真:下城英悟 文・聞き手:小林雄大