クリエイティブディレクター梶原由景とインテリアスタイリスト窪川勝哉。ファッション界、インテリア界を代表する二人が、これまで人生の中で泊まってきたセンスのいいホテルを、お互いに報告し合う連載。第三回目は、梶原さんがニューヨークの“今”を感じたホテル。
●今回ガイドしたホテル
Rivertown Lodge
731 Warren St. Hudson, NY 12534
https://rivertownlodge.com/
天然木材や白木を多用した
共用スペースが快適空間に
雑誌「Coyote」2015年冬号のニューヨーク特集に「ハドソンバレーに暮らす」という記事がある。いわく、ハドソンがそれまでのブルックリンの様に高感度なエリアとなっており、その状況はニューヨークタイムズでも伝えられるほどである。
シティエリアは家賃が高騰、結果ペンステーションから鉄道で2時間程度のアップステートと呼ばれるハドソンバレー周辺にクリエイターやアーティストが移り住み、大規模なミュージアムやギャラリー、レストランやカフェもできている。調べると話題のホテルもある。こういう話には目がない僕は、もちろん調査に向かった。2017年3月のことだ。
ここで言われているハドソンバレーは、ハドソン川沿いでもハドソン駅周辺のことらしい。JFK空港に着いた我々はレンタカーで、まずはハドソンに向かう途中にあるテリータウンを目指した。ここには“Blue Hill At Stone Barns”というロックフェラー財団ゆかりの実験農園跡地を利用したイノベーティブなレストランがある。ここに関しての詳細はBeyond Magazineにてまた別途報告したいと思う。周辺で一泊し、途中ワイナリーを見学したりして(実はNY州はワイン生産量全米3位)、満を持してハドソン到着。宿は“Rivertown Lodge”。
なんとも「今」なホテル。モーテルを改装したそうで、こじんまりした佇まいも良い。売店に置かれているものもグッドセンス(もちろん布バッグ購入)。ロビーや共用スペースには実にセンスよく天然素材が使われている。この感じ、この後様々なホテルで目にすることになる。
これ見よがしなクラフト感でもなくカンファタブルな印象。例えば本来ラグジュアリーの範疇であろうイアン・シュレーガーの“PUBLIC HOTEL”も客室では一見白木などを多用している様に見える。実は汚れが付かず傷にも耐え得るテクニカルな建材か、天然素材に上手くコーティングを施しているのだろうけど。この辺、窪川さんにもいろいろお伺いしたいところ……。
流行っていると聞いていた
ハドソンの現実はまだまだ
さて、“Rivertown Lodge”のデザインを手掛けたのはブルックリンの“WORKSTEAD”。あのWythe Hotelのフロントなども彼らの手になる。ブルックリンとハドソンが感性において直結していることをあらためて感じる。
では、新たな高感度エリアであるハドソンの街はどうだろう。それだけで絵になる様な手書きの看板の数々。トランプに“NO!”を突きつけるメッセージ(今となっては懐かしい)。アメリカの小商は色々見てきたけど、その粋を感じる商店。なるほどこれは佐久間裕美子氏の名著「ヒップな生活革命」で、詳らかにされた新しいアメリカ人のライフスタイルそのものだ。が、しかし決してどの店も流行っている様子はない。というか街に人がいない。やってない店も多い。ふらり紅茶店に入ってみると、主人がはるばるやってきた日本人に興味を持ったようで、いろいろ話しかけてきた。
ハドソンはめちゃ流行ってるって聞いたんだけどそうは見えないね、と我々が問うと、自分もニューヨークタイムズを見て、ここしかないと移住してきたと答える。でもこの有様なんでもう店をたたんでフロリダに引っ越すと言う。なるほど印象通りなのだ。作られたトレンドとまでは言わないけど、まだまだ現実は付いて来てはいないということだろうか。萌芽はあるけどまだ果実は成ってないと言う状態なのかもしれない。百聞は一見にしかず。やはりまたいつか旅に出るしかない。
We Miss Traveling.
まさに勇足となった紅茶屋さん元気かなぁ(笑)。