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ランナーが何を履くかで未来が変わる?

ナイキが目指すパフォーマンスとサステナビリティの両立

author: 神津文人date: 2021/10/05

豪雨に洪水、酷暑に山火事。昨今、世界各地で起こる自然災害のニュースを目にする頻度が増えている。実際、自身が子どもの頃と比べて夏の暑さが増していると感じている人も多いのではないだろうか。
気候変動は、改めて言うまでもなく世界規模で大きな問題となっており、サステナビリティを追求すること、炭素排出量を減らすことは、企業活動を行ううえで避けては通れないものになっている。もちろんスポーツブランドも、その例に漏れず、さまざまな取り組みを行ってきた。
素材のリサイクル品への代替、染色プロセスの省略、再生可能エネルギーを使用する工場の利用、物流・梱包の工夫などが主たるところだろう。

多くの難題をクリアしたナイキの新作シューズ

製品の一部にリサイクル素材を活用するのが一般的になった一方で、スポーツブランドならではの大きな課題もあった。それはウェアに比べると、機能性を犠牲にせずシューズにリサイクル素材を使用するのが難しいということ。特にミッドソール部分に高いパフォーマンス性能が求められるランニングシューズ、中でもトップモデルについては、アッパーの一部やシューレースの素材にリサイクル素材を混ぜるのが精一杯だった。

「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト ネイチャー」の登場は、そんな現状を打破し、スポーツシューズとサステナビリティの関係性を一歩前進させることになりそうだ。

オリジナルの「ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%」は、今年3月のびわ湖毎日マラソンで、鈴木健吾選手が着用していたモデル。2019年10月に非公式のレースながら、エリウド・キプチョゲ選手が人類初のフルマラソン2時間切りを達成した際に履いていたのも、同モデルのプロトタイプである。

ナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト ネイチャー/38,500円(10月15日よりNIKEのメンバーシップ限定で発売予定)
オリジナルのナイキ エア ズーム アルファフライ ネクスト%

「アルファフライ ネイチャー」は、現在の最速モデルとも言える「アルファフライ」のイノベーションを踏襲。重量比にして50%以上のリサイクル素材を活用しながら、クッション性、エネルギーリターン率といった機能性はほぼ同等なのだという。

「アルファフライ ネイチャー」の発表にあたり、インタビューに対応してくれたナイキ ランニング シニア フットウエア プロダクト ディレクターのレイチェル・ブル氏のコメントを紹介しておこう。

「テスターにはアルファフライ ネイチャーがサステナブルバージョンであるとは言わず、アルファフライの新しいバージョンだと伝えてテストをしてもらったところ、とてもいいシューズだというフィードバックがありました。そしてサステナブルバージョンだったと知ったときには、とても驚いてくれました」

ナイキ ランニング シニア フットウエア プロダクト ディレクターのレイチェル・ブル氏

「アルファフライ ネイチャー」に採用されているズーム X ミッドソール、カーボンファイバーのフライプレートは、「アルファフライ」や「ヴェイパーフライ ネクスト%」といった厚底カーボンシューズを作る際に出たスクラップを再利用しており、フォームは約70%、プレートは約50%のリサイクル素材が使われている。

ミッドソールは再生素材を活用していることを、あえて見せるデザインになっている

それにしても、重量比で50%以上がリサイクル素材というのは驚くべき数字だ。たとえば、リサイクル素材を積極的に採用したバスケットボールシューズ、「ナイキ コズミック ユニティ」のそれは25%以上、環境負荷の軽減を目指しつつ高強度のトレーニングのために開発された「ナイキ エア スーパーレップ 2 ネクスト ネイチャー」については20%以上という数字になっている。これには一体どんなカラクリがあるのだろうか。再びレイチェル・ブル氏の話を引用する。

ナイキ コズミック ユニティ

「現状に満足せずプッシュし続けるのが、ナイキというブランドです。このシューズの目標は、どれだけリサイクル素材を盛り込んでパフォーマンスシューズを作れるかということでしたから、チームとしてシューズの要素の全てにこだわって開発しました。アッパーのフライニットには再生ポリエステルを45%以上使っていますし、ズーム エア ユニットには部分的にリサイクルされたTPU素材を活用しています。アッパーを補強する素材として、フライプリントを利用できたのも大きなことでした」

ナイキ フライプリントは、3Dプリント技術を活用した補強素材。エアバッグ生産工程で不要になったTPU素材をリサイクルしている。

そのほか、細かな部分まで徹底してリサイクル素材を活用している。たとえば、アウトソールには、シューズの製造工程で出たスクラップや端材、使用済みのフットウエアから作られたナイキ グラインド ラバーを利用。織ネーム、シューレースは100%再生ポリエステルを使用。リサイクルしたズーム X フォームの小片を形成し直し、布状の素材にしたナイキ ズーム X ソックライナーを、インソールとして採用している。

繰り返しになるが、それでいて「アルファフライ」と同等の機能性を備えているのである。

ランナーが何を履くかで未来は変えられる

ナイキは炭素と廃棄物排出ゼロを目指すMove to Zeroという取り組みを行なっている。その一環として、今後5年間で、環境にやさしい素材の使用を高めることで温室効果ガス排出量を50万トン削減すること、自社所有および運営施設での温室効果ガスの排出の絶対量を70%減らすことなどを目標として発表している。

もちろん「アルファフライ ネイチャー」の登場で万事解決というわけにはいかない。多くのプロダクトを世に生み出している以上、炭素と廃棄物排出ゼロというゴールはまだまだ遠いはずだ。しかし、「アルファフライ ネイチャー」の発売が、ゴールへと向かう大きな一歩であるとも思う。パフォーマンスとサステナビリティの両立が不可能ではないことを示してくれたからだ。

「今回のチャレンジで学んだことは、ほかのランニングシューズにはもちろん、ほかのカテゴリーのシューズにも応用できるものだと思います」と、レイチェル・ブル氏は言う。

ランナーにとってランニングシューズは大切なパートナーであると同時に、消耗品でもある。あなたがどんなシューズを選んで走るか。世界中のランナーの選択の積み重ねが、未来を創るのだと思う。

ナイキのカーボンプレート搭載厚底シューズが従来の常識を覆したように、「アルファフライ ネイチャー」がパフォーマンスとサステナビリティの両立を新しい常識にすることを期待したい。

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ライター・編集者
神津文人

雑誌編集者を経てフリーランスに。「Tarzan」などのヘルス&フィットネス系メディアや、スポーツの領域で活動中。「青トレ」(原晋/中野ジェームズ修一著)、「医師も薦める子どもの運動」「医師に運動しなさいと言われたら最初に読む本」「60歳からは脚を鍛えなさい」(中野ジェームズ修一著)、「100歳まで動ける体」(ニコラス・ペタス著)、「肺炎にならない!のどを強くする方法」(稲川利光著)、「疲れない体になるライザップトレーニング」(RIZAP)などの書籍の構成も手掛けている。趣味は柔術、ときどきランニング。
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