インドではこぼして衣類についてしまったカレーをしっかり落とすことができる「カレー」コースが搭載された縦型洗濯機が発売されている。驚くべきは、この洗濯機を開発したのは日本のメーカーであるパナソニックだということ。カレーの汚れに悩まされているインドで話題となった洗濯機に注目したい。
そもそも「カレー」とは何なのか
カレーなどの同国特有の衣類汚れを落とすカレーコースを含む新プログラム「ステインマスター」を搭載したパナソニックの縦型洗濯機がインドで発売されたのは2017年。さらに汚れ落ちがパワーアップした「ステインマスタープラス」を搭載した新モデル「S8」「V8」シリーズが2019年に発売されている。パナソニックの開発担当者に発売の経緯について話を聞いた。
「Curry(カレー)」コースを含む新プログラム「ステインマスター」が搭載されたモデル
インドの洗濯機市場を占有しているのは韓国勢だ。その中で対抗するためには、独自のオリジナル機能を搭載する必要がある。カレーモードを含む「ステインマスター」モードが搭載された「S7」シリーズは、パナソニックがインドに特化した商品を発売したということで現地のメディアでも多数取り上げられ、注目されたシリーズだ。
同洗濯機の開発が始まったのは2015年にさかのぼる。シミなどに特化した「ステインマスター」という機能を搭載した洗濯機をアジアで展開しており、インドで販売する洗濯機でもそのまま搭載する予定だったが、見直しを行った。「シミが落ちない」という不満が寄せられていたので、約2年間現地の生活環境などを研究し、洗濯機に関するニーズを探ったという。
インドでは、カレーと一口に言っても地域ごとに種類が異なる。インド北部はドロッとした油っこいカレーが多く、南部ではココナッツミルクやココナッツオイルを使うなど、地域によって同じカレーでも汚れの質は変わる。そもそもカレーという単語がヒンディ語にはなく、日本人のイメージするカレーとは定義が異なる。スパイスを使った煮込み料理全般が日本で想像するカレーに似た料理だ。地域などによっても食卓に並ぶ頻度は変わるが、昼と夜に毎日カレーを食べている方も少なくないという。日本人とは、食べる量と頻度が桁違いだ。
ヒーターを搭載してさらにパワーアップした「カレー」コース
では、日常的に食べているインドの人たちは、洗濯をどうしているのか。洗濯機の普及率は10%強で、洗濯機は二層式が主流。手洗いをする方も多く、漂白剤を使いながら手洗いをする方も多い。
「カレーはエビなどのたんぱく質、マスタードやオイルなどの脂質、サフランやターメリックなどの色素により構成されています。それぞれの特性に合わせ、汚れが落ちる条件を探りました。繊維に入り込んだ色素を落とすために、洗剤を素早く泡立てるパナソニック独自の“即効泡洗浄”の技術で衣類に洗剤を泡状にしてふりかけたり、脂を溶かす水温にコントロールしたり、パルセーターの回転時間を長くしてより対流を大きく起こすなど、洗濯のシーケンスを決めていきました」と同社担当者は話す。
最終的にカレーの汚れを実際に布につけて洗濯を行いながら検証を行い、カレーモードが搭載された新デザインモデル「NA-F75S7」「NA-F75V7」シリーズが2017年に発売された。なお、現地の方はカレーとは呼ばないものの、英語の普及率が高いため、英語の“Curry”という単語は認知されており、機能名も理解されたという。
2019年には、これらの後継機種温水のヒーターを内蔵したカレーモード「ステインマスタープラス」コースが搭載された機能強化モデル「S8」「V8」シリーズを発売。従来の機能に加え、新モデルでは約50℃で油汚れも落ちるようにした。このモデルはパナソニックのプレミアムな商品として実勢価格3万ルピー(日本円で4万5千円)で現在も販売中。インドではまだ主流の二槽式洗濯機と比較すると1.5倍から2倍の価格帯となっているものの、ユーザーからは「汚れ落ちがよい」と評価が高いという。
「サリー」「ジーンズ」など、インド独自のコースも搭載
なお、同洗濯機にはカレーモードだけではなく、インド独自のユニークな機能が搭載されている。例えばインドの民族衣装用にプログラムされた「デイリーサリー」コースは、コットン素材の日常的に着られているサリー用の洗濯モードだ。また、インドで好まれているジーンズ用に「ジーンズ」コースも搭載。インドでは未舗装の場所が多く、北部のほうは西のほうから砂漠の砂が飛来することもあるので、日本用の洗濯機よりも泥汚れ、土汚れなどに対して対応している。分厚く、汚れが落ちにくいデニム生地もしっかり洗い上げるという。
大型量販店で展示をしているパナソニック製品
こんなにある! インドならではの調理家電
パナソニックがインドで展開している家電は洗濯機だけではない。調理家電も現地のライフスタイルに合わせた製品を販売している。
1990年9月に、炊飯器の量産を開始。発売当時、インドでは炊飯器でお米を炊くという風習がなかったため、厳しい状況が続いていたが、お米を炊くと同時に他の調理もできるアタッチメントをつけたインド向けの炊飯器「Automatic Cooker」を開発、1992年6月に量産を開始した。インドでは調理家電の使い方を認知させることからはじめなければならず、積極的に調理デモや料理教室などを行い、レシピなども多数考案してサイトに掲載。その甲斐あって、現在も販売しているロング商品になっているという。
Automatic Cookerはカレーが作れるアタッチメントがついているので、炊飯と両方できる
また、イドリ(お米の蒸しパン)や、ドーサの生地を作るために、お米や豆をすりつぶす電動の石臼「Super Wet Grinders」や、スパイスのグラインディングやチャツニ、野菜をペースト状にするミキサー「Super Mixer Grinder」なども現地で好評だという。特に「Super Mixer Grinder」は、1995年発売以降、年間約25万台(2019年)と現地で人気の製品。愛用しているユーザーは1回の食事を作るのに5回以上使用するほど、必需品になっているそうだ。
カレー大国のインドにおいて、カレーの下ごしらえに使う調理家電、そしてこぼしてしまったときに洗濯できるパワフルな洗濯機まで、日本とは大きく異なる独自のラインナップでパナソニックは展開している。中でもしっかり汚れが落とせるインド向け洗濯機は、気になる商品。「カレー」コースは、清潔志向の日本人にも受け入れられるかも?