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Column

料理じゃないほうでカレーを布教

キャンプブームにも一石を投じる「着るカレー」ブランドの挑戦

author: Beyond magazine 編集部date: 2021/07/27

カレー好きが高じて、着るカレーブランド「カリーメイソン」を立ち上げ、2020年には高円寺にカレーとアパレルとアウトドアを融合したショップ「Whimsical」をオープンしたTSUNOKAWA FARMの角川昌弘さん。昨今のスパイスカレーブームとはまったく違う文脈でカレーを布教する彼の野望とは?

フリーメイソンとカレーが
繋がった大井競馬場

「カレーに興味を持ったというより、神保町の名店『エチオピア』の虜になった」という角川さん。たまたま先輩に連れられて入った「エチオピア」で食べた豆カレーは、これまでに食べてきたカレーでは感じたことのなかったインパクトを与え、その正体を探るようにほぼ毎日通ったという。週5回、一度食べても2〜3時間後にはまた食べたくなる不思議な感覚だったそうで、それから3年間、商談などで外出があっても、帰りは神保町を経由する日々が続いた。それも毎回豆カレー。

角川さんのキャリアは、20代前半に入社した「BEAMS」から始まる。新しいトレンドをキャッチして、今後ネタとなるような商品やブランドを探す商品開発部に所属し、10年弱勤め上げて32歳で独立。独立後は、アパレルのほかにアウトドアにも守備範囲を広げ、商品のリメイクなど卸しをメインに行なってきた。

「DETOUR LIFE(デトアーライフ)というブランドを立ち上げ、メイド・イン・トーキョーのものづくりにこだわった商品を作ったり、あくまでも仕事の主戦場はアパレルでした。それまでの間、僕の人生にはカレーの「カ」の字も登場しません(笑)」

そんなある日、エチオピアの豆カレーを食べ続ける日々のなか、ふと「CURRY MASON(カリーメイソン)」というワードが降りてきたという。カレーはあくまで趣味、仕事とは切り離していたのだが、当時凝っていた「フリーメイソン」から「カリーメイソン」というアパレルブランドのイメージが一気に湧き上がったという。

「フリーメイソン」のシンボルである「ヤハウェの目」をモチーフに「カリーメイソン」のメインビジュアルが誕生した

「ちょうど大井競馬場でフリマに出店したときに、たまたま遊びに来てくれたのが「GRINDLODGE(グラインドロッヂ)」のデザインディレクター、加藤先生ことカトチンさんでした。カトチンさんも筋金入りの“フリーメイソン通”で、「カリーメイソン」のロゴデザインを依頼すると、二つ返事で快諾してくれました。ブランド誕生の瞬間です」

カレーブームとキャンプブームを見通す「ヤハウェの目」

趣味であるカレーと仕事であるアパレルやアウトドアギアの垣根がなくなったとき、話は転がるように進んでいった。

「そもそもカレーとキャンプの親和性は高い。小さいときのキャンプ飯は飯盒炊飯をしてレトルトカレーを食べるのが当たり前でした。我ながらなぜこのことに気づかなかったのか。カリーメイソンを立ち上げてからは、セレクトショップやイベントに招待され、だんだんと口コミで広がっていきました。今や成熟しきったキャンプブームにおいて、おおよそ一式のギアが安価で手軽にそろうにも関わらず、針の穴を通すような趣向を凝らしたギアが開発され、すごい戦いが繰り広げられています。そこに切り込むにはカレーが最良の武器でした」

「Whimsical」では、「スペーススパイス」と「36チャンバーズ オブ スパイス」の代理店も務めているので、この2社をはじめ多くのレトルトカレーをラインナップ

「カリーメイソン」では、“キャンプをする”という目的から、キャンプでカレーを作って食べるというところまでのレクリエーションを「スパイシーキャンピング」として提唱している。いいギアを持っているからこそ、それを使って美味しいスパイス料理を食べる。カレーづくりは、初めての人でも極端に不味くなることがないうえ、個性も出しやすい。それぞれのカレーを作って味見を楽しめて、準備や道具も最低限で済むので、キャンプブームにもう一つの路線ができると感じているそうだ。

「あくまで、スパイスカレーというムーブメントの外側の人に、ファッションやアウトドアを介してカレーの魅力を知ってもらいたいと思っています。百貨店の催事やカレーフェスには、どうしてもカレーファンが集まってしまう。これではカレーが内輪だけのものになってしまいます。そのために、キャンプイベントのワークショップとしてカレーを振る舞う機会には積極的に参加していますし、こうした地道な活動が奏功して、最近ではカレー好きの人からも「カリーメイソン」の認知度も増えてきました。アウトドアショップのキャンプ飯コーナーにも、さまざまなカレーが並ぶようになってきてます」

カレーがサブカルの域を
越える架け橋として

めぐり合わせるようにカレーの街・高円寺に店舗を構えることになった「Whimsical」。角川さん独自の審美眼が光るセレクトアイテムが集まる

すでにカレー業界を席巻している著名人は多い。東京カリ〜番長の水野仁輔さんや、スパイス料理研究家の一条もんこさん、CHANCE THE CURRY代表でカレー研究家のタケナカリーさんなど、カレーを主戦場としている多くの人たちは、「カリーメイソン」を温かく迎え入れてくれたそう。

「僕はあくまでカレーを食べる側の人間で、僕の力が活かせるのは付加価値をつけたり、新しい市場を開拓したり、集客や広報のところ。カレー作る人は美味しいカレーを作ることだけに集中してほしいと思っています」

2020年末には、カレーとキャンプとアパレルのセレクトショップ「Whimsical」を東京・高円寺にオープン。高円寺にはカレー店も多く、店主をはじめ噂を聞きつけてわざわざやってきてくれる人も多いという。ただし、うっかり入ってきた古着好きのカップルなんかは、奥まで入ってきて「なんでここにカレー!?」と黙って出ていく人も多いそうだ。

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「カレー業界の交友関係が広がっていくなかで、ありがたいことにカリーメイソンオリジナルのレトルトカレーを商品化することになりました。カレーおじさんこと、AKINO LEEさんから紹介していただいたスパイスメーカー「スペーススパイス」と、レトルトカレーメーカー「36チャンバーズ・オブ・スパイス」の2社はインディペンデントな会社で、スパイスだったり、具材だったり大手にはできないような本当に細かいところまでこだわりを持っています。「カリーメイソン」のレトルトカレーは、この2社の胸を借りて、妥協することなく納得できるものが完成しました」

そのほかにも、カレー以外でカレーに貢献できるプロジェクトが水面下で進行中だ。知人を介して結成したカレーアイドルプロデュースプロジェクトは、年内にオーディションを行う予定。カレーがサブカルにとどまらず、「日本のカレー」として世界に羽ばたくためには、世界でも通用しているアニメやアイドルを介して届けていく必要があるという。また、カードゲームだけでなく、ICチップを埋め込むことでAR(拡張現実)を活用したカレーのトレーディングカードプロジェクトも着々と進んでいる。

80年代のアニメ調のビジュアルを得意するイラストレーター・こまやま明さんを起用したポップ

「これまでファッション業界に足を突っ込み、長らくサーフィンもしてきました。でも、40歳を過ぎてここまで熱中することができたのはカレーだけ。2015年に神保町で食べた「エチオピア」の豆カレーから6年、カレーがファッション、キャンプを介して、新しいカルチャーとしてより多くの人に届けられるよう活動することがもっぱら僕のライフワークになりました」

カレー業界の異端児として、この先の動向からも目が離せなそうだ。

文:山田卓立 写真:下城英悟

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Beyond magazine 編集部

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