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本場じゃないから個性が引き立つ

珍食材とスパイスの組み合わせが癖になる「妄想系インドカレー」

author: Beyond magazine 編集部date: 2021/07/25

――インドに行ったことはないけれど、“妄想”という言葉で解放された。そう話すのは、東京・高円寺にあるカレー屋「ネグラ(妄想インドカレー)」の店主・大澤思朗さん。2016年のオープン以来、他の店では味わえない一皿を求めて、多くのカレーフリークが足を運ぶ名店だ。今回はそんなネグラに伺い、大澤さんの歩みやカレーのこだわりについて話を聞いてきた。

街の中にみんなの居場所を作りたかった

高円寺駅から徒歩5分、古着屋や飲食店が軒を連ねる通りにネグラはある。オープンから5年目を迎え、今では高円寺を代表するカレー屋のひとつだ。店主の大澤さんは、ネグラを開く前からこの街でカレーを作り続けてきた。

「高円寺にAMPcafeというギャラリースペースがあるのですが、毎日のように色んなイベントが行われていて、僕はイベントに合わせたカレーを作っていました。その後ギャラリーのオーナーと、近くにあった取り壊しが決まっているビルで半年間限定でお店をやることになったんです」

もともとロックバーに使われていたというビルの一室で、昼間は大澤さんがカレーを提供し、夜は日替わりでバーテンダーがお酒を振る舞っていた。アーティストや作家など、様々な職業の人たちが集まる場所でもあり、そうした交友関係は今でも続いているという。

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半年間の営業を経て、同じく高円寺に自分のお店を構えることになる。大澤さんは、学生時代から飲食店を開くことを目標としていた。

「大学を出てから、ずっと飲食店がやりたい、街の中に居場所を作りたいと思っていました。〇〇料理がやりたいというより、たくさんの人が出入りして、自由に使える拠点みたいなものを作りたかったんです。そのための準備として、イタリアンで働いたこともありました。手に職をつけるじゃないですけど、ちょっとずつ自分の中に要素を集めたり、料理の幅を広げたかったんです」

スパイス、
そしてカレーの世界へ

イタリアンレストランで料理の腕を磨く中、ある時スパイスに興味を持った。嗅いだことのない香りや種類の豊富さを知るうちに魅了されていく。

「イタリア料理は食材をメインに捉えるので、あまりスパイスを使わないんです。使うとしてもコショウだったり、デザートのアクセントに少し使うくらい。そんな中でもっとスパイスの勉強をしたいと想いが膨らんできて、塩とコショウの専門店で働くことにしました。

例えば、スーパーではターメリックなら『ターメリック』として1種類で売られていますが、品種や産地、鮮度によって大きく変わってくるんです。スパイスって、日本の食生活では味わったことのない、嗅いだことのないような知らない地域に誘われるような体験がすごい面白くて。そういう楽しさに気づいてから、スパイスにどっぷりハマっていきました」

そこからカレーの世界にたどり着くまでは、そう遠くなかった。スパイスに魅了されていたことに加えて、みんながワクワクする食べ物であり、食のひとつの象徴のような存在であるカレーが、自分が料理をする上で大切にしていることと繋がったことが、カレーを作る決め手になったという。

素材の組み合わせに、
食の楽しみを見出す

現在ネグラでは、週毎にメニューを変えてカレーを提供している。以前筆者が伺った際は、しらすを使ったカレーを食べたが、その意外な組み合わせに驚いた。オープン当初は、何十種類ものスパイスを組み合わせたり、ガツンとくるような辛さはないけれど癖になる味を作り出したりしていたが、いまは食材そのものに興味があるのだとか。

「高円寺から近い中野に生鮮市場があるので、食材は業者から仕入れるだけではなく、直接八百屋に行って“今日はどんな野菜があるのかな”と見て回るのが楽しいです。そうやって自分の目と足を使っていると、短いスパンで食材が入れ替わっているのにも気づきます。あと季節感も分かりやすく、山菜が出始めたから春だなー、みたいな。

また流通しづらい珍しい野菜や、足が早く保存期間が短い野菜など、一般的なスーパーには並ばないような野菜も売られているのも嬉しい。八百屋のおじさんも、こういうの入ったよとか、こういう風に調理すると良いよって教えてくれるんです。そういう珍しい食材でカレーを作って試すのが面白いですね」

最近は「夕顔」を使ったカレーを作ったという。夕顔とはウリ科の野菜で、干瓢(かんぴょう)の原料にもなる細長い瓜のこと。たんぱくで癖がないから、逆に癖のあると食材と組み合わせるのがおすすめ。ネグラでは山羊の肉と組み合わせたカレーを考案した。

気になる店名、“妄想”の裏話

改めて気になる店名の“妄想”インドカレーという文字。カレー屋は数あれど、こんなに気になる名前はなかなかない。その裏には、こんなストーリーが隠されていた。

「お店を出そうとしていた当時は、日本人が現地に行って修行をして、南インドカレーのお店を出しているような流れがありました。そんな中で、かなりヒゲを伸ばしていたこともあり、風貌から『絶対インド行ってますよね』、『インドでどれくらい修行してきたんですか』って聞かれることがあったけど、僕は修行どころかインドに行ったこともない(笑)。

そうしたジレンマを抱えていた時期に、周りの人に“じゃあ妄想って言っちゃえば?”ってお酒の席で軽い感じで言われたんです。妄想って言えば、やりたいことを自由に表現できる! ってなりまして、それで“妄想インドカレー”という言葉をお店の名前に加えました。

お店を始めるとき、すごい頭が固い人間だったので飲食店を出すための本もすごい読んでたんです。コンセプトシートをしっかり作らなきゃダメだとか、新しいお店の90%が3年以内に潰れるとか、しっかりターゲットを具体的に想定しなきゃダメとか。そんな時に、『妄想インドカレーって言っちゃいなよ。楽しくやろうよ』って言ってもらえたことが衝撃的で。その言葉で新しいアイデアが出てきたり、がんじがらめになっていた自分から解放されました」

妄想だからこそ、自由な発想が生まれる。既存のルールに縛られない斬新なカレーは、店名にも表れているのだと感じた。そこで、ふと気になったのがお店をオープンして5年が経とうとしているが、あれからインドには行ったのかどうか。聞いてみると、答えはNoだった。

「妄想と名前を付けているからといって、こだわってインドに行っていないわけではないです。カレーやスパイスには興味があるんですが、インド全体のカルチャーにはさほど興味なくて、単純に好みの問題です。ただ一昨年にスリランカには行ってきました。向こうでシェフの料理教室も受けてきたのですが、影響を受けた部分もあります」

「店名の由来を知っている人には、なぜか知らない間にインドに行っちゃいけない雰囲気があって(笑)。スリランカに行ったのに、知人には「なんか隠れてインド行ってたらしいじゃん」って言われてました」(大澤さんの奥様)

妄想インドカレー、いざ実食!

ここまで話を伺ってきて、カレー欲が最高潮に高まってきた。満を持して、ネグラのカレーをいただこう。ネグラでは一皿にカレーを合掛け、副菜もワンプレートで提供する。本日のメニューは、「山羊と夕顔のカレー」「茄子のビンダルー」「バジルのダール」「ビーツのロシア風マッシュポテト」「老酒とマンゴーのプルドポーク」である。

筆者自身カレー好きなこともあり、数々の名店を食べ歩いてきたが、ネグラのカレーは唯一無二と言っても過言ではない。まず美味しい、そして味が優しい、最後に楽しい。

「たまたま山羊の肉が手に入ったのでメインにして、あと今日は天気がモヤッとしているのでさっぱり系のものを多めに入れてあります。夕顔も、いまが旬です」

素人でも分かるほど、ひとつひとつの料理が丁寧に作られていると感じた。じっくり煮込まれていて、素材の味を引き立てながらスパイスがほのかに香る。刺激ではなく優しさ。使い古された表現かもしれないが、毎日食べたくなるカレーとはこういうことである。

山羊の肉も下処理がしっかりとされているのか、嫌な臭みは一切ない。ビーツの鮮やかな赤色が見た目にも楽しい。さらにお店自慢のタンドリーチキンは柔らかく、香ばしい。正直、タンドリーチキンの自分史上1位だ。「よかったら混ぜて食べてください」というアドバイスに従い、複数のカレーを一緒に食べると、第4、第5の味へと変化する。またしても美味い。これが合掛けカレーの醍醐味だろう。無我夢中で食べ進め、あっという間に完食。本当に美味しかった、ごちそうさまです。

メニューは週替りということもあり、ほかのメニューも気になる。ネグラでは「出張ネグラ」として、イベントなどへのケータリングサービスも行っている。これまで近所の銭湯から秘境の温泉街まで、日本各地に美味しい食事を届けてきた。

「今週はずっと出張で京都に行っていたんですが、ネグラの壁紙をペインティングしていただいた『苦虫ツヨシ』さんという方の個展が京都であって、その個展のクロージングでカレーを作りに行きました。苦虫さんの展示が、鮮やかな色のコラージュを使っていたので、ビーツのハッとするような赤やマンゴーのオレンジ、赤玉ねぎのピクルスなど使って、色で遊ぶカレーをテーマに作りました。あと鴨川ってカップルがデートしていて、なんか甘酸っぱくて優しいイメージがあったので、ちょっと酸味を効かせて、お肉も主張しすぎないカレーに仕上げました」

味が美味しいのはもちろん、食べる楽しみが詰まっているネグラのカレー。大澤さんの妄想は、食べる人をきっと幸せにしてくれるだろう。次はどんなカレーが待っているのか考えると、カレー好きとしてはワクワクが止まらない。

「果物も面白くて、いまはマンゴーを使ってサルサを作っています。メキシコやタイ、インドなどさまざまな国から輸入されているんですが、それぞれ品種や味が違うので興味深いです。八百屋さんに聞いたり、ネットで調べてもいまいち違いが分からなかったので、実際に食べてみるとコクが違ったり、マンゴーなのに複雑な味のものもあって。マンゴー単品で食べると難しいかなと思うものもあるけど、例えばお酢と合わせてソースにすると……美味しい! みたいなものも。シンプルに仕上げたお肉に、ソースを組み合わせることで幅が広がります。

そういう食の楽しみ方って日常生活でも楽しめるんじゃないかなと考えていて。普段の食事は、簡単に安く作れるものでルーティンとして決まっちゃってることもあると思いますが、ちょっともったいないなって。いろんな食材をいろんな組み合わせで食べられたら、食の楽しみが広がるはずです」


ネグラ(妄想インドカレー)

住所:東京都杉並区高円寺南3丁目48-3
営業日時:公式SNSよりご確認ください。

Twitter:
https://twitter.com/negura_curry

Instagram:
https://www.instagram.com/negura.curry/

Facebook:
https://www.facebook.com/negura.curry



文:小林雄大(編集部)、撮影:下城英悟

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