サモサはスパイスで味付けした具材を生地で包んだ揚げ餃子のような料理。三角錐のような形をしていて、インドをはじめとした南・西アジアで食べられています。
そうなんだ、って感じですよね。日本での知名度でいうと、地元が近いビリヤニやミールスの後塵を拝する恰好です。でも、食レポの力次第では食べたことのない人にその味をはっきりとイメージさせることができるはず。この記事はそんな思いから企画されました。
食レポを担当するのは、独特な言い回しで食べ物や飲み物の味を説明する「水道水の味を説明する(UR https://youtu.be/FcxEUJK4-ys?si=9zDhExH5hpQGE8qPL)」ネタで知られるお笑い芸人・鈴木ジェロニモさん。日本ではまだ知られていないこのおいしい三角形を説明していただきました。

鈴木ジェロニモ
お笑い芸人。歌人。YouTuber。俳優。1994年生まれ、栃木県さくら市出身。プロダクション人力舎所属。「R-1グランプリ2023」準決勝。「第4回笹井宏之賞」「第5回笹井宏之賞」「第65回短歌研究新人賞」最終選考。J-WAVE『GURU GURU!』「鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌」ナビゲーター。YouTubeでの「説明する」動画が注目され、NHK総合『ドキュメント20min.』にて「ニッポンを説明する」として番組化。2024年11月、書籍『水道水の味を説明する』をナナロク社より刊行。
インドカレーは東京の一人暮らしの味

「ローカルインディア 恵比寿本店」
――今回、取材にご協力いただいたのは都内に9店舗を展開する「ローカルインディア」さん。常に2種類のサモサを提供していて、店舗によっては期間限定の味が並ぶこともあります。ところでジェロニモさんはサモサを召し上がったことはありますか?
いや、ないですね。インド料理でいうとビリヤニとかはよく食べるんですけど。上京してから好きになって。
――地元にいらっしゃったときはあまり馴染みがなかった?
自分の中では東京に来たなっていう実感と結びついてるのがインドカレーの味なんです。
僕の地元は栃木県のさくら市っていう、県庁所在地の隣のちょっと田舎の方なんですけど、カレーを外で食べるっていう感覚がマジでなくて。
上京したら大学の近くにナンおかわり自由みたいな学生向けのインドカレー屋さんがあって、よく食べるようになりました。
地元にいた頃の感覚だと、キーマまでは理解できてたんですけど、バターチキンカレーというものが未知の存在で。バターでチキン? インドって感じがしないけどインドのカレーなのか? みたいな感じで。

――ほかにはどんな食べ物が好きですか?
あとは餃子ですかね、栃木県出身なので。それも東京に来てから「栃木って餃子だよね」って言われるようになって意識し始めたところがあります。そう言われてみると2週間に1回は晩ご飯に出てきてたなって。
――ちなみに今回の記事は「包」特集の一環として企画された取材で、餃子についての記事も掲載予定です。
それでいうと、芸人として衣装に身を”包”むっていう行為は気持ちを切り替える儀式みたいなところがあります。朝起きたばかりの寝癖のついた素の自分と同じ直線上の、ちょっと前にいる自分というか。同じ人間なんだけど、自分をお客さんに対してプレゼント用に包んでいる感覚があります。

――素の自分と芸人としての自分を前後の位置関係で捉えていて、かつ芸人の自分が”前”なんですね。
そうですね。髪をセットして髭を剃って作った舞台上の自分、虚像の自分が空港の保安検査場へ進んでいくのを、少し後ろで見守るような感覚です。
探知機がピーッと鳴らないで通れたらよしよし、これで外に出られるな、と。ゲーム画面を操作してる自分が後ろにいるんですよね。
手の中で蛍が光っている味

右からプレーン味、チキン味、期間限定のパンプキン味
分かりました。では、いただきます……。

美味い
熱い
できたての鉄球の熱さ
柔らかい、詰まっている
詰まっている、閉じ込められている
閉じ込めた栄養の味
畑の光の味
光で耕された地面

暖かい太陽
心臓を撫でられている
励まされる味
手の中で蛍が光っている
蛍色の光の味
懐かしい
もう一度書いた思い出の味

朝になる
ここでディップソースを付ける
朝になる
外国の朝の光の味

食卓になる
ソースによって食卓になっている
思い出をリマスターしている
リマスターした記憶の味
暖かいところが甘い
自分で穴を掘っている
穴を掘る手応えの味
未来でほぐれる約束の味
――続いてはチキン味を召し上がってください。

さっきより重い
美味い
卵
料理で作った卵の味
味がジャンプする

ここでまたソースをディップ
坂の上の味
走り終わった足
柔らかく生まれている
駆け上がる約束の味
駆け抜けたあと味がする
ソースが窓になる
額縁の中の熱い写真の味
ほぐすためにまとめている
未来でほぐれる約束の味

付け合わせのアチャール(漬物)もいただく
鋭い
氷ができあがるときの味
早送りした氷の味
氷の酸味
坂の上に花が咲いている
駆け抜けたあとに咲く花の味

偶然撮られた笑顔の味
――最後に期間限定のパンプキン味です。
美味い
温かい
分厚い
さっきより皮が厚い
包みが強い
強く包んでいる
重量がある
一番詰まっている

甘い
強い
熱い果実
火の果物の味
火のフルーツ

例によってソースをディップ
冷たいソースが輪郭をくっきりさせる
柔らかい
干して凝縮されている
味が集まっている
味が集まる渦の味
温かい味の渦
大切に起こした柔らかい火
火の真ん中に実がある
火の中央の果実の味
抱きしめた中央の味
愛の真ん中にある心臓の味
畑の心臓
畑の上に吹く風

風が集まって甘い
風の味が甘い
本当は甘い風の味
風の果物
温かい風で花が揺れている
ほどいた緊張の味
偶然撮られた笑顔の味
サイズ以上の充実感がある
――3種類いただきまして、最後にシェフのお話を伺います。
ジェロニモ:全部美味しくて、一つひとつ違う味わいがありました。中身に合わせて生地も変えてらっしゃるんですね? パンプキンが一番厚くてクロワッサンっぽい生地でした。
シェフ:パンプキンはちょっと柔らかいから、外ちょっと硬いのがいい。
ジェロニモ:なるほど、プレーンやチキン味は割と具に歯ごたえがあるけど、パンプキンは比較的柔らかいから、外側に歯ごたえをつけたほうがいいと。

ジェロニモ:具が黄色いのはターメリックですか?
シェフ:そう。
ジェロニモ:個人的には特にチキン味が好きです。肉がそぼろのような食感で、卵も入っていて。
シェフ:チキン、インドでは入れないけど。サモサはポテトだけ。
ジェロニモ:なるほど、本来はポテトが入ったものだけをサモサとするんですね。今日作ってくださったサモサは味も本場のものとはちょっと違うんでしょうか? 日本人向けにアレンジというか。
シェフ:インドのサモサはもっと辛いね。あと、ミントとジンジャーとレッドチリのスパイスソースをディップする。
ジェロニモ:やっぱり本場のは辛いんですね。今日出していただいたディップソースは辛くないものでした。ミントの入った辛いソース、気になりますね。

ジェロニモ:そういえば、アチャールの酸っぱさが付け合わせとしてとてもよかったです。
サモサが温かくて柔らかい味なのに対して、ソースとアチャールが冷たくて鋭いので、縦軸と横軸でちょうどよく補完しあっているというか。サモサとアチャールの2品で1皿の料理を食べたなという満足感があります。
シェフ:ナイスコンビネーションね。
ジェロニモ:インドではサモサを学校や仕事の帰りに食べたりするんでしょうか?
シェフ:そう、ストリートフードね。レストランにもあるけど。
ジェロニモ:包みが三角形なのはどうしてなんでしょうか? 丸くてもいいのかなと。
シェフ:(説明が)難しい。丸はサモサじゃない。丸いのは別の食べ物。グジヤというお菓子、甘いのがあるよ。それは丸い。
ジェロニモ:なるほど、判別のために形が分けられているのか、慣例的なものなのか、とにかくサモサは三角形をしているものなんですね。
シェフ:あと、丸だとかじるの難しいね。ディップできないね。
ジェロニモ:確かに。

――使っているスパイスについて伺ってよろしいでしょうか? クミンシードが入っているような気がしたんですが。
シェフ:スパイスは内緒ね。
――失礼しました。企業秘密ということで。
シェフ:でもクミンシードは使ってる。
――では最後にジェロニモさん、一緒にインド料理屋さんへ行った方がその日初めてサモサを食べるとしたら、どんな言葉をかけますか?
そうですね、3種類食べてみて実感しているのが、思っていたよりずっと食べごたえがあるということです。例えば肉まんなら空洞がある前提で食べるじゃないですか。サモサには空洞がなくて、本当にぎっしり詰まっている。そのつもりで注文するといいよというのは伝えますね。サイズ以上の充実感がある料理でした。

店舗情報

ローカルインディア恵比寿本店
住所:東京都渋谷区恵比寿南1-23-8 アメリカンブリッジビル 2F
電話:03-3793-1656
営業時間:11:30〜15:00(土日は〜16:00)、17:00〜22:00
Instagram:@localindia_official