2012年にクラウドファンディングで出会ったOculusに惚れ込んで、創業者のパルマー・ラッキー氏に会いに渡米。意気投合した結果、Oculus Japanを立ち上げてしまった。さらに、FacebookにOculusが買収されたのを機に、パートナーエンジニアスペシャリストとして入社し、名実ともにVR業界のエバンジュリストとなった“GOROman”こと、近藤義仁さんによるガジェット好きのための連載。
気持ちよく失敗する
小さい頃から機械の仕組みや中身が気になってしょうがなかった。5歳くらいの時におばあちゃんの家で埃にまみれた白黒テレビをバラバラに分解させてもらった。その時うっかりブラウン管のガラスを割ってしまった。「ブシュー」。まるでガスが吹き出すような音がした。これはきっと毒ガスだ・・・。呼吸を止めた。
”ヤバい死ぬ!”
と直感的に思った。でも死ななかった。これは毒ガスではなく逆に真空に空気を吸い込んでいく音だった。毒ガスのかわりに安堵の気持ちが全身から吹き出した。普通だったらオトナに「危ない!何やってるの!」と怒られそうなものだったが、何故かおばあちゃんには褒められた。割ってしまったのは失敗だったが、まるで何かに勝利した気分だった。
残機論
コンピュータゲームには昔から「残機」の概念がある。どこの誰が決めたか知らないが大体のゲームは3機スタートだ。世界中で大ヒットしたスーパーマリオにしてもシューティングゲームにしてもスタートは3機。3回やり直せる。なにやら3機あると都合が良いらしい。良いスコアを出せば残機も増える(EXTEND)。失敗が許容される優しい世界だ。
自分が尊敬する海外の有名ハッカーで、“The Hadware HACKER”の著者 “bunnie” ことAndrew Huang は同じガジェットやハードウェアは3つ買おうと語っていた。
- One to Break
- Minimize barrier to gross characterization & learning
- One to Hack
- Experiment to test theories
- One to Check
- Baseline to ground experiments
1個は戻せないぐらい分解する。もう1つは壊れない程度にいじる。最後の1つは初期のままにして比較用にする。
もし残機が1機しかなければ分解は躊躇するだろう。ラスト1機失えばゲームオーバーでジ・エンドだ。ハックや改造もできなくなる。でも残機が3機あれば色々とチャレンジできる。チャレンジから新しいアイデアが生まれる。
あのサイクロン掃除機で有名なDyson社の設立者ジェームズ・ダイソンも試作機を5127台つくったそうだ。これは残機多すぎだが。
PLAYER.1 READY?
2012年、VRブームの火付け役であるOculusに出会ったのはクラウドファンディングKickStarterだった。2013年に最初の1台が届いた直後に体験し、「これは世界を変える!」と直感した。そう、かつてパソコンやネットに出会った時と同じ、痺れる衝撃だった。すぐにネットオークションを調べ、出品されていた全て買い占めた。3機のOculus Rift DK1を手に入れた。残機は万全だ!1台は分解し、もう1台は色を白く塗り中身を改造した。
最近もAppleのAir Tagを買った。これはいわゆる忘れ物防止タグだ。忘れ物防止のタグは古くはIndiegogoにあったTrackRやTileなどBluetoothのものが主流だった。AppleはU1 ChipというUWB(Ultra Wide Band)用のチップを搭載し、まるでレーダーのようにタグをiPhoneから探し当てることができる。
また、いつもの癖が出た。中身が気になってしょうがないのである。分解した。1つは昇天してしまった。まだだ、3機ある。まだ戦える!
ハードウェアもソフトウェアもどんどんブラックボックス化する。だからこそ中身を知りたい。仕組みも知りたい。失敗してもいいじゃない。人間だもの。
人生を残機化する
自分は中学1年の時に電話回線を使った「パソコン通信」にのめり込み、ネットの世界で生きた。いつしかハンドルネーム”GORO”の人格が生まれた。リアルや本名から枝分かれしたブランチ(branch)した新しい人生だ。いつしかその枝分かれした世界がマージされ、幹(trunk)になった。今後VRの技術が一般的になり、人々がバーチャル化し、本名(リアルネーム)や姿にとらわれず別のアバターをつくっていけるのならば、人生も3回くらいはやり直せるのかもしれない。2機失ってもラスト1機があるし、エクステンドするかもしれないのだ。
少年よ、残機を抱け ボーイズ・ビー・ザンキシャス ー GOROman (2021)