ソニーが今までにない新しいタイプのウェアラブルデバイスを発表しました。「MOTION SONIC」とは一体どんな製品なのか?不思議なガジェットに筆者が体当たり取材をしてきました。
あらゆる楽器を、軽やかに弾きたい……
「それにしても、どうしてこんな事になったのだろうか? 五線譜もろくに読めない自分が、気が付くとグランドピアノの前に座ろうとしている。目の前にはホールを埋め尽くす大観衆。意を決して指を鍵盤に置くと、驚嘆に値するほど美しいメロディを奏ではじめていた。ところで、この手首に装着しているものは一体何だろうか?この不思議なデバイスのおかげで、いま私はオーディエンスから熱烈な喝采を送られている」
筆者はこんな筋書きの夢をよく見ます。筆者は物事をあまり深く考えられない単細胞なので、原稿の締め切りに追われている時にはよく「暗殺者に命を狙われる夢」を見たりもします。たぶんこの「ピアノの夢」も初めて会う人や、出張を伴う取材現場に向かう前夜の緊張から生まれているのだと思います。
でも、あらゆる楽器を軽やかに弾ける演奏者になることは筆者の見果てぬ夢でもあります。その夢を叶えてくれそうな新しいデバイス「MOTION SONIC(モーション・ソニック)」をソニーが発表しました。
ジェスチャー操作により音を操るエフェクター
MOTION SONICは楽器を演奏するユーザーが手首に装着して使うウェアラブルデバイスです。基幹部分の小さなコアデバイスには6軸モーションセンサーが内蔵され、装着しているユーザーが手首を回転させたり、上下左右に振ったりする「体の動き」を検知すると、ピアノやギターなどユーザーが演奏する楽器の音にエフェクトを加えて出力できるというもの。「ジェスチャー操作により音を操るエフェクター」として本機を例えることができます。
MOTION SONICによって操作できる「ピッチベント」「ディストーション」「リバーブ」などのエフェクトはiOS版から先にリリースされるスマホアプリの中に収録されています。手首に装着するMOTION SONICの本体とiPhoneとの間はBluetoothによるワイヤレス接続。iPhoneはUSBオーディオインターフェースと呼ばれる、スマホを楽器やマイク、スピーカーなど音楽演奏に必要なツールに接続するためのデバイスにUSBケーブルでつなぎます。
以上がMOTION SONICによる演奏を楽しむための環境設定となります。では実際にどうやって使うものなのか、筆者がソニーに足を運んで開発中の試作機を体験してきました。
楽器の演奏が楽しい。
創造性が刺激される
MOTION SONICの操作はとても簡単。入力操作に対する遅延を感じることなく、ジェスチャーによって入力されたエフェクトが楽器の音にとてもスムーズに反映されます。
例えばピアノの鍵盤を指で押さえながら手首を回転させてピッチベントをかけて音程を上下させたり、DJコンソールの場合は手首のアップダウンで音を減衰させたり、左右に振ってステレオ音声をパンさせるなど、楽器の特徴を活かせる最適なエフェクトとの組み合わせもありそうです。
USBオーディオインターフェースの音声入力に接続した楽器であれば、アコースティックギターのピックアップからの音楽信号や、マイクで拾った人の声、打楽器の音にもMOTION SONICを使ってジェスチャー操作でエフェクトを追加できます。ダイナミックなジェスチャーと熱い音楽が連動すれば、もっと大勢のオーディエンスを強く惹き付けられるはずです。
もはやお気付きかと思いますが、MOTION SONICはある程度楽器を弾く心得があったほうが、ジェスチャー操作ならではと言える独特なエフェクトを音に付与できることの楽しさを発見したり、クリエーションに役立つウェアラブルデバイスであることをより強く実感できると思います。筆者が夢に見る「習ったことのない楽器が弾けるようになる」ような魔法のデバイスでは残念ながらありません。
でも、その使い方を工夫すれば電子ピアノで雰囲気の良い和音を鳴らしながら、音のピッチを変えたり、歪ませてオリジナルの音源を作り、その素材をYouTubeで配信する動画のBGMにするなんてことが、楽器や音楽を学ばなくても楽しめるかもしれません。
ソニーでは海外のクラウドファンディングサービスであるIndiegogoを使ってMOTION SONICをローンチしようとしています。実施期間とする6月27日までに目標金額868万円の支援を募集。通常販売価格は27,200円(税込)として、2022年3月ごろの出荷を予定しています。
MOTION SONICが音楽を制作したり、楽器を演奏するクリエイターのマインドを刺激するデバイスなのか、クラウドファンディングの成果を引き続き見守りたいと思っています。
ジェスチャー操作の可能性を切り拓くウェアラブルデバイス
MOTION SONICには、以前にソニーがテニスやゴルフのレッスン用として商品化・販売した「スポーツセンサー」の技術が注入されています。今後もし、身に着けるユーザーの動作をより細かく正確に、種類も幅広く認識できるようになれば、例えばユーザーが指先でリズムを刻むだけでピアノが弾けるようになったり、MOTION SONIC自体を楽器として楽しめるかもしれません。
あるいはジェスチャー操作で自宅のコネクテッド家電を動かしたり、自動車などの乗り物を運転することなどもソニーは検討しているのでしょうか。近い未来に、新たなスマートライフのトビラを最先端のジェスチャー操作に対応するウェアラブルデバイスが開く姿を、ソニーのMOTION SONICから垣間見たように筆者は思います。今後の展開から目が離せないスマートデバイスです。
取材協力:ソニー