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1ミリの誤差も許されない——

炊飯器向けの「本土鍋」に込められた職人魂

author: Mochtan Athyssadate: 2025/04/22

ふっくらとした粒立ち、豊かな甘みとうまみ、ほのかな香ばしさ——。土鍋で炊いたごはんには、独特のおいしさがある。そんな土鍋の風味を求めて「本土鍋」を内なべに採用しているのが、タイガー魔法瓶(以下タイガー)の「土鍋ご泡火炊き」シリーズだ。1931年創業のミヤオカンパニーリミテドは、四日市市の伝統工芸品である萬古焼を継承しながら、新たなテクノロジーを組み合わせてタイガーの炊飯器向けに「本土鍋」をつくっている。そんな同社の工場を取材した。

焼き物である土鍋を工業製品である炊飯器と組み合わせるのは、非常に難易度が高い。焼き物は、窯で焼く工程で収縮するため、センチメートル単位の誤差が出る。ところが工業製品は、0.1mm単位の精度が求められる。内なべが大きすぎれば炊飯器に入らないし、小さすぎればすき間ができて熱がうまく伝わらない。

そんな難題をクリアして、タイガーの炊飯器向けの「本土鍋」を製造しているのが三重県四日市市にあるミヤオカンパニーリミテドだ。四日市市は日本有数の陶器産地で、古来から続く伝統工芸品の「萬古焼」が有名だ。萬古焼は耐熱性、耐久性に優れることから土鍋に適しており、なんと日本の土鍋販売量の約8割を占めるという。

同社は一体どのようにして難易度の高い炊飯器向けの本土鍋をつくっているのか。その製造工程を見せていただいた。

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1931年創業のミヤオカンパニーリミテド

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ミヤオカンパニーリミテド 営業・開発部 営業主任の廣田哲平氏に案内していただいた

世界中から集めた12種類の土をブレンド

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本土鍋の製造は、原料となる土の選定から始まる。ミヤオカンパニーリミテドでは、国内の土に加え、世界中から集めた12種類の土をブレンドして使っている。その時々によって土の質が変わるため、専門の技術員がベトナム、ブラジル、中国、ドイツ、フランスなど各国を飛び回り、山の状態を見ながら原料を仕入れるという。

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ブレンドした土は、大きな円筒状の「粉砕機」に投入し、小石とともに回転させることで粒が決められた大きさになるまで砕いていく。この「粒の大きさ」は非常に重要で、小さすぎると焼成時に収縮しすぎてしまうが、大きすぎると密度が低く割れやすくなる。粉砕する時間は土のブレンドや気温によっても変化するため、知識と経験が必要な工程だ。

粉砕された土(というよりシャバシャバの泥に近い)は、一度100トン規模の地下タンクにためる。1カ月ほど寝かせることで微生物が土を熟成させ、コシが出るそうだ。熟成が終わったら土を専用の機械で脱水し、円盤状のプレスケーキという状態にする。

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円盤状の土を布の間に挟んで圧力をかけ、水分を絞る。この工程で土の水分量は約20%になる。

土の硬さを決めるのは「手の感覚」

 次は土を練る工程だ。プレスケーキ(円盤状の土)を投入し、決められた硬さになるまで機械で土を練り上げる。気泡が入ってしまうと割れる原因になるので、真空状態で完全に空気を抜く必要がある。

気温や湿度、後の工程に入るタイミングによっても求められる硬さは変わってくる。硬度計もあるが、最も信用できるのは職人さんの「手の感覚」だという。現在、この感覚を持つ人は2名しかいないとか。

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指で押すと跡が付く、ほどよい硬さに。

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練り上げた土を型に入れ、機械で成型していく。あっという間に内なべの形が完成する。

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乾燥中の本土鍋。温度を上げながら3回に分けて乾燥させ、水分を完全に取り除く。

要求される精度は、わずか±0.3mm

形ができたら乾燥の工程に進む。一般的な土鍋はこの工程で6、7mm縮むというが、本土鍋は高い精度が求められるため、極限まで縮まないよう工夫している。3回に分け、一晩以上かけてゆっくり確実に水分を抜いていく。少しでも水分が残っていると、この後の焼成工程で割れてしまうそうだ。本土鍋に求められる精度(公差)は、側面が±1mm、底面はなんと±0.3mm。通常、焼き物では考えられないような高い精度が求められる。

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(写真提供:タイガー)

乾燥が終わったら、いよいよ焼成工程に入る。一般的には、最初に低い温度で素焼きをした後に、さらに温度を上げて焼く。しかし本土鍋は、最初に1300℃近い高温で半日かけてじっくり焼くという。これも精度を高めるための工夫だ。 

次に、釉薬を塗布して1100–1200℃で二回目の焼成を行う。釉薬というと装飾目的を思い浮かべがちだが、土鍋の場合は物理的な強度や耐熱性の向上といった機能性を付加するのが主な目的だ。

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焼き上がった土鍋を一つひとつ、人の目でチェックする。棒で叩くと、割れがないか音で分かるそうだ。

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発熱体シートの貼り付けができるのは、わずか数名

焼き上がった本土鍋の底面に発熱体のシートを手作業で貼り付けていく。熱がまんべんなく行き渡るよう、底だけでなく斜めの面にも貼り付ける必要があり、地味ながら難易度が非常に高い。工場内でも、この作業ができるのは数名だという。当初は30分に1個しかつくれなかったが、工夫を重ねて今では1.5~2分に1個のペースで生産できるようになった。

この作業後、3回目の焼成を行う。800-900℃で丸1日近く焼いたら完成だ。土づくりから完成まで、実に3カ月もかかるという。

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職人技とテクノロジーの見事な融合

「土鍋で炊いたごはんがおいしいから、炊飯器の内なべに土鍋を使おう」というのは、誰でも考えつきそうなアイデアだが、それを実現するのは非常に難しい。精密な電化製品と、土を焼き上げてつくる土鍋を高い精度ですり合わせる必要があるからだ。タイガーとミヤオカンパニーリミテドは、そんな難題を、創意工夫とていねいな職人技で見事に乗り越えた。まさに日本のモノづくりの強みを実感した工場見学だった。

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Mochtan Athyssa


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