ゴス、パンク、モード、ミニマリスト、メタル……さまざまなカルチャーで愛され、トレードマークのように定着している“黒い服”。「洗練」の表現にもなれば、「反抗」の象徴にもなる一方で、「どんなコーデにも合わせやすい」「汚れが目立たない」という理由から、「無難」という印象を持たれることも。
モデル、歌手、作家など、多彩に活動する弓ライカの私服は、全身黒コーデが多い。「黒色はなりたい自分に似ている」と話す弓に、黒い服を着る理由を聞いた。

弓ライカ
1998年12月30日生まれ。埼玉県出身のモデル。イギリス出身の父、日本出身の母のもとに生まれ育つ。12年前、原宿でスカウトされたのをきっかけにモデルに。「ミスiD2016」を受賞。特技は歌、写真、読書、作家。
Instagram:@yumi_raika
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黒い服は、お守りのような存在

──今日は私服で3つの黒コーデをつくってくれましたが、それぞれポイントを教えてくれますか?
1着目のポイントは、お気に入りのMARTEというブランドのセットアップです。MARTEさんとの出会いは、モデルとして呼んでくれたのがきっかけ。もう10年ぐらいの付き合いになります。

セットアップは、ウエストも紐で縛るタイプで楽に着られるのに、素材のおかげで気品さを感じるところが好きです。
2着目は、キラキラしているJOSE MOONのドレスです。私は、キラキラしているものが大好きで、ゴールドのアクセサリーもドレスに合わせてたくさんつけました。黒はシンプルだからこそ、アクセサリーを思いのままにつけても、印象が重たくならないなと感じます。
服がドレッシーなので、靴はあえてマーチンを合わせて、普段着としても着れるコーディネートにしました。ワンピースは、マーチンやスニーカーと合わせるのが好きです。たくさん歩きたいし、歩いたらいろんなものに出会えるので。
3着目の主役は、Haig'doneのスカートです。シースルーで、レイヤードできるタイプなので、若干合わせるのが難しいなと思うんですけど、だからこそ愛着があります。

Haig'doneは、形がおもしろい服がたくさんある素敵なブランドです。今回はシンプルな黒Tと合わせたんですけど、そういった無難になりがちな服も、ここのブランドと合わせると個性が出ます。
真っ黒のソックスを合わせると全体的に重たい印象になると思ったので、あんまり見えないけど、シースルーのスカートにシースルーのソックスを合わせました。靴はなんにでも合うプラダのローファーです。
──同じ黒コーデでも、それぞれ印象が違って素敵です。弓さんは、いつから黒い服を着るようになりましたか?
黒ばかり着るようになったのは高校生の頃からだと思います。淡い色合いの服は子どもの頃から日常的に着ていたことはなくて。はっきりした色ばっかり好んで着ていて、行き着いた先が、一番はっきりしている黒い服でした。そもそも中学生のときから、ゴスロリ系の服が好きだったんです。

──ルーツはゴスロリなんですね! ゴスロリにはまったきっかけは?
その当時、原宿で流行っていたんです。『KERA』という雑誌を読んだり、SNSでゴスロリコーデの人たちを見たりしているうちに、本格的にファッションが好きになって。その頃から無難じゃない黒い服を選ぶことが多かったと思います。
──なぜ、無難じゃない黒い服が好きだったんだと思いますか?
私はわりと内向的で、人とおしゃべりするのがあんまり得意じゃないんです。でも、ちょっと個性的な服を着ていると、それをきっかけに人とお話する機会が増えて、友達もできました。あと、これは思春期っぽいんですけど、強めな服を着ていると、ナメられないというのもありました(笑)。
それに、自分の内情を人に悟られるのにも苦手意識があって。黒い服を着ているだけで、心が弱っているときでも、物理的に強そうに見える。それが好きなんです。これは今もですが、お守りみたいな感じで、黒い服を着ているんだと思います。
他の色を際立たせる黒は、私の理想の女性像

──世間だと、黒は「無難」という見られ方をするときもありますが、それについてはどう思いますか?
無難と言われる黒ですが、合わせるのが意外と難しいと思っています。だからこそ、朝起きてコーデを選んでいるときに、ビシッと決まると爽快感を感じるんです。シルエットが黒でまとまって見えるからこそ、素材感が重要になってくる。ちょっとした素材の違和感も目立つから、まとまりを持たせるのが難しいというか。だから黒は意外と、無難じゃないのかなと思います。
──Instagramには「赤色と青色が好きです」と書かれていますが、着る服は黒の方が多いですか?
赤と青の服を着ることもあるんですけど、黒は脇役としても優秀なので、この二色に合うからとよく選んでいたら、今はクローゼットが黒い服でいっぱいです(笑)。
お花が好きということもあって、赤いお花と青いお花をよく買うのですが、黒い服は、花もすごく目立たせてくれるんです。そういうふうに、他の色やものを際立たせてくれる黒は、私の理想とする女性像に似ているなと思います。

──理想の女性像について教えていただけますか?
外見は、強くてミステリアスで気品のある、猫みたいなイメージです。内面は、夕日やお花の美しさに惹かれているので、そういった美しい心を自分も持ちたいと思って生活しています。
黒が他の色を際立たせるように、私は人を傷つけたくないという気持ちが強くあって。八方美人って一見悪いイメージがあるかもしれないんですけど、私は常にどんな人にでも優しくありたいんです。「綺麗に見せて何が悪いんだ」みたいな精神で生きています(笑)。

──その考えは、身近な方だったり映画や小説のキャラクターだったり、誰かから影響を受けていますか?
誰からも影響を受けていないんです。自分のなかで、理想の人を作りたくないというのがあって。他人に影響されるのはもちろん必要だと思うんですけど、「その人になりたい」といろんなものを取り入れてしまうと、自分じゃなくなっちゃう感覚があるから。
あと、もしかすると常に自信がないから、「憧れるなんておこがましい」とどこかで感じてしまっているのかもしれないです。

──黒い服を着ていて、理想の女性像に近づけていると感じる瞬間はありますか?
それは感じます。綺麗なシルエットの服を着ていると背筋を伸ばして歩こうと思うし、周りからの見え方が気になるので、自分の立ち振る舞いを見つめ直すきっかけにもなります。逆に、だるだるっとした服や、毛玉がついている服を着ていると、行動やマインドもだらしなくなっちゃう気がして。
内面は自分で意識しないと美しくなれないと思うんですけど、自分の好きな服を着ることで自然と内面にも目を向けることができるようになるし、理想の自分でいられると思います。
服を選ぶことは、自分の心情を表すクリエイティブな行為

──服を選ぶときは、どんな基準で選んでいますか?
そのときによりますけど、例えば、今日着ていたキラキラのJOSE MOONのドレスは、気分が上がっているときに着ることが多いです。気合いを入れたいときとか。目立ちたくはないけれど、目を引く存在になりたいときに着ます。
──「目立つ」と「目を引く」は別なんですね。
「目立つ」は、こちらから誰かの目に入り込んでいくイメージで、「目を引く」は、誰かがこちらを主体的に見ているイメージです。

──言葉の細かいニュアンスまで考えて服を選んでいるなんて、びっくりです……!
言葉がもともとすごく好きで、それで詩や歌詞を書いているんですけど、ふだんから言葉の細かい違いについて考えることも多いんです。それに、言葉を考えることは、服選びとつながっていると感じていて。自分の心情に沿って、言葉を選ぶのと同じように、服も選んでいるんだと思います。
──黒い服を選ぶことも、心情を表現するクリエイティブの一環なんですね。
そうかもしれないです。私は、落ち込んでいるときにクリエイティブなことをすることが多くて。たぶん、言葉で話すのが苦手だからこそ、ものづくりとかファッションを通じて、自分の気持ちを整理するのが好きなんだと思います。
それに、話しているときの言葉って目に見えないじゃないですか。だから他の形で目に見えるようにすると、なんとなく心が落ち着きます。
──最後に、弓さんが「黒い服を着る理由」を、あらためて教えてください。
自分を強く見せるための鎧でもありますし、口下手な私にとって、自分のキャラクターを表現するためのツールでもあります。
人とコミュニケーションを取るきっかけにもなるし、シンプルに「楽しい」「好き」と思えるものでもある。黒い服を着ることは、私にとって生きる術のひとつなんです。
