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数十円の差が生活の手元を照らす

鈴木ジェロニモのベストバイ┃旭化成ホームプロダクツ 「サランラップ 30cm×50m」

author: 鈴木ジェロニモdate: 2025/01/21

鈴木ジェロニモという名前でお笑い芸人をしている。誰のせいでこんなに寒くなったんだと冬の窓を睨んでいたら、Beyond magazine様からご連絡をいただいた。
 
「2024年のベストバイアイテムについてご執筆いただけませんか」。
 
僕を慰める雪のような連絡に僕はすぐ頷いた。ベストバイアイテム紹介とはなんて華々しい芸能生活……と踊りかけて足元を見下ろすと、そもそもバイしたアイテムの少なさに目が覚める。視野いっぱいの花畑を夢見ることは諦めて、季節外れの花壇に間違えて咲いた花のような愛らしい購入品を見つめる。1回戦が決勝戦と言って差し支えない小規模大会になったけれど、そこを勝ち上がったアイテムの素晴らしさには自信がある。「サランラップ」。本当だ。今年のベストバイアイテムである。

鈴木ジェロニモ

お笑い芸人。歌人。YouTuber。俳優。1994年生まれ、栃木県さくら市出身。プロダクション人力舎所属。「R-1グランプリ2023」準決勝。「第4回笹井宏之賞」「第5回笹井宏之賞」「第65回短歌研究新人賞」最終選考。J-WAVE『GURU GURU!』「鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌」ナビゲーター。YouTubeでの「説明する」動画が注目され、NHK総合『ドキュメント20min.』にて「ニッポンを説明する」として番組化。2024年11月、書籍『水道水の味を説明する』をナナロク社より刊行。

Instagram:@suzukigeno
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旭化成ホームプロダクツ 「サランラップ 30cm×50m」470円
※編集部調べ

正式名称を「旭化成ホームプロダクツ『サランラップ』」という。もちろんあの、食材や料理を包むために使用される透明なフィルムのことだ。僕もあなたもきっと同じように使っている。

「サランラップ」という名前それ自体は聞き飽きてもう一度愛せるくらい耳にしたことがあると思う。数年前の僕のように、もはや〈あれ〉のジャンルそのものを「サランラップ」と認識している人がいてもおかしくないだろう。実は「サランラップ」というのは旭化成ホームプロダクツ様が展開する〈あれ〉の登録商標であり、〈あれ〉自体の正式名称は「食品包装用ラップフィルム」というらしい。

商品名がジャンルそのものと誤認され得るほど「サランラップ」という名前が浸透している理由に、威力に、僕はようやく今年気がついた。

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ドラッグストアの〈あれ〉のコーナーに行くと何種類かの〈あれ〉が目に入る。プライベートブランドと思しき価格を抑えた〈あれ〉も、「サランラップ」も、真面目な王様のように等しくそこに並んでいる。「サランラップ」の位置には赤いポップで「特価!」と書いてある。税込437円。確かに特価かもしれないけれどそのコーナーにおいては最高級品だ。

僕は買い物はいかに安く終えられるかだと思っていたので、これまでコーナーの最高級品に手を伸ばすことはなかった。しかし幸い今年になってろうそくの火のような小さい給料をいただく機会があったため、生活の手元を照らすつもりで、最高級の「サランラップ」を掴んでレジに持っていった。

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使ってみて、驚いた。こんなに快適でいいのか。今まで使っていた安い〈あれ〉はキッチンの換気扇が生む微風に耐え切れず、ロールから引き出すや否やへなへなと酩酊したように萎れてフィルム同士がくっついてどうにもできなくなることが常だった。上手く引き出せたとしても、今度は〈あれ〉を切る刃の部分と噛み合わず、角度と力点を探るのに時間がかかり、そのうえ不恰好に切れた。あらゆるトラブルを掻い潜って上手く包めたとしても、冷凍したそれを電子レンジで温めると〈あれ〉が思わぬ変形をして取り外すときに苦労した。

それらのストレスが、「サランラップ」には一切ない。炊飯釜に残していた熱いご飯を「サランラップ」に包んだとき、熱で弱って裂けなかった。きちんと密閉したい箇所にはきちんとくっついてくれた。柔らか過ぎない柔らかさが生活にしっくりきた。

思えば数十円の差だった。数十円安いストレスか、数十円高い快適か、どちらを購入するのか選ぶ自由がきっとあなたにもある。もしもタイムマシンがあったなら〈あれ〉のコーナーでしゃがんで迷っている自分に会いに行く。そして両肩を掴んで「『サランラップ』を買いなさい」と説く。「サランラップ」

を快適に使う生活は魔法使いになったようで気持ちがいい。

意外と期限が早い食パンを、余ったトマトソースを、安く買った鶏肉を、透明な「サランラップ」で包む。包んだ食材を分厚い手紙のように冷凍庫にそっと置く。未来の自分という恋人がそれを温める。電子レンジの明るい窓に顔が映る。その顔はきっと笑うだろう。

Text:鈴木ジェロニモ
Edit:山梨幸輝


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鈴木ジェロニモ

お笑い芸人。歌人。YouTuber。俳優。1994年生まれ、栃木県さくら市出身。プロダクション人力舎所属。「R-1グランプリ2023」準決勝。「第4回笹井宏之賞」「第5回笹井宏之賞」「第65回短歌研究新人賞」最終選考。J-WAVE『GURU GURU!』「鈴木ジェロニモ 半径3mの違和感短歌」ナビゲーター。YouTubeでの「説明する」動画が注目され、NHK総合『ドキュメント20min.』にて「ニッポンを説明する」として番組化。2024年11月、書籍『水道水の味を説明する』をナナロク社より刊行。
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